大金持ちが大豪邸を「手放す理由」~庶民には分からない苦悩がある

豪邸生活の「知られざる真実」
週刊現代 プロフィール

相続をどうするかが大問題

東京西部の主要線沿いに建つその豪邸は、不動産業を営む長岡氏が競売で手に入れ、約7000万円をかけてリフォームしたもの。室内を見せてもらうと、目を引くのは漆仕上げの特注階段。海外職人のハンドメイドで巨木から切り出して作ったもので、金額は「4ケタ万円は超える」という。

 

4つある洋室はどれも10畳超のゆとりある造りで、トレーニング専用の部屋もある。過去には、「ドラマのロケで使わせてほしい」とオファーされたほどの豪邸だ。

「ちょうど息子が高校生になる頃にこの家を建てて、いまも息子家族と2世帯で暮らしていますから、子どもは物心ついたときからずっとこの家に住んでいることになります。私は不動産業をやっていて、一時は9000万円くらい納税していた時期もありましたから、家族におカネで苦労をかけた記憶はない。以前は自分がちゃんと働いて家族を支えてきたという自負がありましたが、最近はあまりに息子を甘やかし過ぎたかなと反省しているんです。

というのも、この家に2世帯で住むと決めた時、息子夫婦には『庭の管理をすべてやる』という条件をつけたんです。それなのに、いざ住み始めたら、『こんなに大変なのをすべて見切れない』とサジを投げてきた。それで雑草や芝がどんどん伸びてきてしまうので、この前は泣く泣くコンクリートで固めたところもあるほどです。

息子からすれば、放っておけばそのうち親父がやるだろうくらいにしか考えていないんでしょう。カネの苦労も知らず、大きな家で甘やかして育てたのでこんなことになってしまったのではないかと痛感してね」

長岡氏はこの一件を機に、いまからでも遅くないから息子に苦労をさせようと思い立ち、「自分で住む家くらい自分で見つけてこい」という意味を込めて、豪邸を売りに出すことを決めたと言う。

「私は死ぬ時にはなにも残しておきたくないと考えているので、財産を残すつもりはないんです。ただ、すべてを生前に処分できるわけではないので、残るものは残ってしまう。息子にはそれを期待しながら生きて欲しくはないんです。

だから、この家を売りに出したのは息子夫婦へプレッシャーをかける意味が大きくて、本当に売る気はあまりない。相場よりかなり高めで売り出しているのもそのためで、内覧に来る人はいますが成約しません。ある日突然、『小さいマンションだけど、住む家を見つけたよ』と息子夫婦が言ってくる。私はそんな日が来るのを待っているというわけです」

そんな長岡氏とは打って変わって、「子どもに財産を残すための相続対策」を理由に豪邸を売りに出す人も多くいる。

有名病院や名門校が集まる都内の一流住宅街。その一角に建つ建築面積500m2超の豪邸を売った永田伸二郎氏(仮名、70代)が言う。

「私はこの家を親から相続しましたが、さらに自分の子どもに残そうという気持ちはありませんでした。そこで無理をして相続で苦労するより、現実的に家族がみんなずっと幸せに生きることを考えれば、いま売る以外に選択肢はなかった。

実際、子どもへの相続を考えた時、大きな戸建ては処分がとても難しい。それよりもマンションで相続したほうが、よっぽど融通がききます。この家には私と子どもの2世帯で住んでいたので、家を手放して新しく2つのマンションに住み替えることにしました」

「持ち家はもういらない」

豪邸ともなれば莫大な相続税がかかり、対策を誤れば家ごと失うリスクも出てくる。実際、故田中角栄元首相は相続税額が50億円以上もの巨額となったため、遺族は「目白邸」の敷地の一部を物納し、母屋は取り壊された。「日本一のお金持ち」と言われるソフトバンクグループの孫正義社長ですら、数年前に麻布の大豪邸を妻名義にしているほどである。

永田氏は言う。

「もちろん家を売ると少なくない額のおカネにはなるのですが、まずここからたっぷり税金を取られます。さらに、残った分で新居を買って、もろもろの手数料などを支払えばそれで終わりです。相続対策で家を売ってもまったく儲かるわけではない」

あまりにリアルな「豪邸相続」の現実だ。

見てきたように、豪邸の主たちは、一般人には推し量れない悩みを抱えている。有名企業創業者の真野徹氏(仮名、40代)も「豪邸の弊害」に気がつき、外国大使館などが点在する都心一等地の豪邸を売りに出した。

「これからのグローバル時代には世界を飛び回るのが当たり前で、居心地のいい豪邸なんて建ててしまったら、外に出るのが億劫になってしまうかもしれない。子どもの将来を考えたらそれではいけないと思い、家を売ることにしました」

真野氏は20代の時にたった一人で興した事業が急成長を遂げ、いまや国内外にビジネスを展開。そんな成功の証である豪邸を建てたのはほんの数年前だが、この家を早々に手放すことにためらいはなかったと言う。

「実はすでに下の子と妻をともなってシンガポールへ住居を移しているんです。高校生の子もアメリカに留学させました。将来日本に帰ってきたら家は借りればいいだけです。グローバルに仕事をするようになって痛感してきたのは、そもそも持ち家なんて必要ないということです。もう、家にステータスを求めるような時代ではない」

ただ、真野氏の家は約10億円とあまりの高額のためか、まだ買い手はついていない――。

維持するのにカネがかかるし、税金問題に頭を悩まされるし、売ろうと思ってもなかなか売れない。誰もが憧れる豪邸生活は、意外と「苦労だらけ」なのであった。

『週刊現代』2016年11月5日号より