IBMの人工知能「ワトソン」、医者が思いもよらぬ治療法を続々発見

そして世界のAI市場は寡占状態へ
小林 雅一 プロフィール

社運を賭けることへの懸念も

その一方で、IBMがあまりにも強くワトソン事業にコミットしていることには懸念の声も聞かれる。

たとえば最近も有名な米コンサルティング会社を買収し、彼らが蓄えた金融規制に関する膨大なデータをワトソンに読み込ませて、その分野のエキスパートに仕立てようとしている。が、このような企業買収を繰り返せば、相当のコストがかさむ。

また、そうした巨額の資金だけでなく、IBMはワトソン事業に推定1万人もの社員を投入している。つまり総合的に見て、IBMはワトソンを次世代の基幹ビジネスと位置づけ、これに社運をかけているのだ。

これに対しては、実は当初から賛否両論が聞かれ、今に至るまで評価は定まっていない。

 

繰り返しになるが、昨今の加熱気味のAIブームとは裏腹に、この分野で真に技術革新があったのは「パターン認識」など一部領域に限定されており、それが今後「自然言語処理」など、より高次の知的領域へと拡大する保証はない。

もちろん前述のようにマイナーチェンジを重ねることで対応するという手もあるが、そのやり方では限界に突き当たることは目に見えている。また仮に「ディープラーニング」のような真の技術革新が、上記のような高次領域でもいずれ起きるとしても、それまでには長い期間を要する恐れがある。

この段階でIBMが、ワトソンのようなAIビジネスに社運を託すことは「リスキーな判断」と見られても仕方がない(ちまみにIBMはワトソンを「AI(人工知能)」ではなく「Cognitive Computing(認知コンピューティング)」などと呼んでいるが、世間一般の通念ではAIである)。

ポジティブな評価が優勢に

が、冒頭のNYT記事の論調などから判断すると、ここにきて徐々にではあるが、そうした周囲の懸念は薄らいでいるようだ。

つまりワトソンは「医療」や「経営支援」など実ビジネスで巨額のお金を稼ぐ力を蓄えつつある。これらに加え、いずれ「自然言語処理」など高次領域でも本物の技術革新が起きた時には、その力はさらにアップするだろう。

〔PHOTO〕gettyimages

こうしたAI事業に大量の資金や人員を投入することを決めたロメッティCEOらの経営判断はどうやら正しかったようだ――少しづつではあるが、そうしたポジティブな評価の方に傾いているようだ。

特に、ここに来て、医療分野におけるワトソンの成果には目覚ましいものがある。たとえば日本では最近、東京大学医科学研究所がワトソンを使って、「急性骨髄性白血病」の患者に対する新たな治療法を見出し、その命を救った、との報道がなされた。

これは実は「まぐれ当たり」ではなく、ワトソンが癌治療に応用された1000事例の30%で、医師(人間)では思いつかなかった新たな治療法を提案しており、それは医学関係者に衝撃を与えている。

同じNYT記事によれば、IBMはこのワトソンを今後、一種のコンピューティング・プラットフォームとして産業各界の無数の企業に有料で提供することにより、巨額の利益を稼ぎ出そうとしている。

これと同じことを、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどライバル企業も計画しており、2020年までには世界のAIアプリケーションの60%は、彼ら巨大IT企業のAIプラットフォーム上で開発される見込みだという。

IBMを筆頭に、世界のAI市場は寡占状態に向かって進んでいるようだ。

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