マインドフルネスと禅、その決定的な違いは何か?

同じ瞑想に見えても全然別物
松山 大耕

身近な例でいうと、ランニングがわかりやすいでしょう。先日、ニューヨークのコロンビア大学の大学院でMBA(経営学修士)コースにいる学生が40名ほど坐禅や精進料理など禅を学びにやってきました。彼らに禅とマインドフルネスの違いを説明するためにこんな質問をしました。

「セントラルパークでランニングするのを日課にしている人はいますか?」すると一五名くらいの学生が手をあげました。「では、みなさんは何のためにランニングをしているのでしょうか」すると、「痩せたいから」「リフレッシュしたいから」「強い体を作りたいから」などさまざまな回答がありました。

まさに、そういう考え方がマインドフルネスの欧米での用いられ方なのです。つまり、何かご利益があるから走るのです。

しかし、禅ではそういうもののとらえ方はしません。走るために走るのです。確かに、走っていたら、体重も減るだろうし、体も強くなるでしょう。

しかし、禅ではそれを目的にはしません。走っていたら自然にそうなっていた、ということでしかありません。物事を究めるためには、目の前にある短絡的な利益を求めるのではなく、それを実践すること自体が目的にならねばいけないのです。

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ゲインを求めてはいけない

これも繰り返しになりますが、仏教というのは、何らかの神を信じているのではありません。釈迦という人間が悟りを得たということを信じているわけです。しかし、その悟りの中身はわからない。彼がどのような境地に達したのかは誰にもわからない。

だからそれが何なのかを自分で知ろうというのが仏教の修行者たちのそもそもの動機なのです。その先に何があるのかはわからない。でも何かがあると信じて、釈迦と同じように苦行を積む。それが仏教や禅の本質なのです。

つまり、こうやってトレーニングすれば不安レベルが下がる、健康になるということは、もちろん結果としてはあったとしても、禅はそれを目的にはしていません。釈迦の悟った中身は何なのかという、もっと超越したところへ意識を向けます。

そして、もし悟ることができたとしても、それで満足して終わってはいけないと禅では考えます。大切なのは、悟りを得たらその経験を世のために使っていくこと。禅の修行はあくまでもその手段にすぎないのです。

そういった意味で、自分の集中力を高めたり、幸福感を得たりすることが目的となっているマインドフルネスとは、考え方が根本的に異なるのです。

もう一点私が思うのは、こうしてある意味、功利主義的な考え方のもとで得られた幸福感というのが長く続くものなのかどうか、ということです。

 

確かに実験として脳の活性度などを測定すれば、科学的に見てそのときは「幸福な状態」にあるといえるのかもしれません。しかし、それがもし短期的なものであり、心にしっかりと根付くものでないのであれば、根本的な解決にはなりません。

人間は欲深いものです。そのときに幸福感を得られたように思えても、ある種の達成感を得ると今度はそれでは満足できなくなってきます。すると、その後には、同じことをやっても同じような幸福感が得られるかどうかはわからない。マインドフルになろうとすればするほど、自分への執着が強くなり、却って逆効果になることも多々あります。

マインドフルネスを実践しながら、カウンセラーのお世話になっている、などという笑えないケースもあるそうです。ゲインを求めて行う瞑想というのは、こういう懸念をはらんでいると私には感じられます。

とはいえ、瞑想することは別に禅の特権ではありません。真言宗でもイスラム教でもキリスト教でも瞑想はやります。また、もともと仏教は科学とも親和性が高い宗教です。ダライ・ラマ猊下も、宗教と科学は矛盾しないとおっしゃり、科学の知見を仏教に積極的に取り入れようとされています。

ただ同じ瞑想でも、目的やその本質的な考え方は全く異なることがあるということです。逆に言えば、マインドフルネスと禅を比較し、その違いを知ってもらえれば、禅とは何か、その本質は何か、ということがより明確に理解できるようになるでしょう。

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松山 大耕(まつやま・だいこう)
妙心寺退蔵院副住職。1978 年京都市生まれ。2003年東京大学大学院農学生命科学研究科修了。埼玉県新座市・平林寺にて3年半の修行生活を送った後、2007年より退蔵院副住職。2009年5月、政府観光庁Visit Japan大使、2011年より京都市「京都観光おもてなし大使」。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出される。2011年には、日本の禅宗を代表してヴァチカンで前ローマ教皇に謁見、2014年には日本の若手宗教家を代表してダライ・ラマ14世と会談し、世界のさまざまな宗教家・リーダーと交流。2014年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席するなど、世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。