「グランブルー」へのフリーダイブは、宇宙遊泳と似ているのかもしれない

島地勝彦×篠宮龍三【第4回】
島地 勝彦 プロフィール

シマジ いままでいろんな海で潜ってこられて、いちばん美しいと思ったグランブルーはどこですか。

篠宮 地中海の青は本当に深く美しかったです。

シマジ わたしは画家のカラヴァッジョが大好きで、彼の最期の作品がマルタ島にあります。それを観るためだけにマルタ島に行ったことがあるんです。一緒に行った方が芸大でオペラを教えていた永竹由幸教授でした。

ヒノ 永竹先生は亡くなられたそうですね。

シマジ そうなんだ。惜しい方を亡くしました。その永竹教授がある日ここに遊びにきて「ぼくはサルデーニャ島の別荘を持っているんだけど、あの辺で行きたいところがありませんか?」と言うので「マルタ島に行きたいんです」と即答しました。

その時「あの辺の海はどこでも泳げますから、海水パンツを持ってきてください」と教授にいわれました。マルタ島は断崖絶壁ばかりの島で、階段みたいなところを降りて行って海に入るんですが、その海の青さには感動しましたね。あれが「地中海ブルー」というんでしょうね。篠宮さんはマルタ島で潜ったことはありますか?

篠宮 ぼくが地中海で潜ったのはギリシャとニースですね。

シマジ ニースな砂浜ばかりではないんですか。

篠宮 隣の村にヴィルフランシュ・シェル・メールというところがありまして、そちらに行くと結構すぐに深くて真っ青の海があるんです。

シマジ マルタ島は一度潜ってみたほうがいいですよ。素晴らしい小さな独立国です。英語が公用語で料理はイタリアンなんですよ。首都のヴァレッタにサン・ジョヴァンニ大聖堂があって、そのなかにカラヴァッジョの大きな絵が飾られているんです。

篠宮 歴史的にも豊かな国ですよね。

シマジ そうです。十字軍の砦でもあったんです。いま飲んでいるこのグラスはマルタグラスというものです。

篠宮 一度行ってみたいと思っていました。海底にはきっと歴史的な遺跡が眠っているんでしょうね。

シマジ あるでしょう。あの島にはオスマントルコが10万の兵を引き連れて攻めてきたんですよ。迎え撃つ十字軍はたったの5000人で勝ってしまった。勝因は長く闘ったことです。こちらは陸地で相手は船だったので、そのうちに食料が尽きて去っていったんです。

そうだ、ヒノ、玄関に飾っている十字軍の兵士のフィギュアがあるだろう。ちょっと持ってきてくれる。篠宮さん、こんな格好で十字軍は戦ったんですよ。

篠宮 重そう。よくこんな格好で動けましたね。

シマジ マルタの夏は暑いですからね。

ヒノ ぼくも学生時代、夏休みにギリシャに行ったことがあるんですが、海は本当にきれいでしたね。でも海水はメッチャ冷たかったです。

篠宮 ギリシャ辺りは9月ぐらいになると海水の温度が上がるんですけど、7,8月はまだ低いんですよね。

ヒノ ああ、それで。ぼくが行ったのはたしか8月でした。こんなに冷たいのによくヨーロッパ人は平気で泳げるよなと感心しました。

シマジ 欧米人は平均体温が37.5度ぐらいあるからだよ。わたしたち日本人は36.2度ぐらいだから、ヨーロッパに留学している日本人が風邪を引いて医者に行って「熱があるんです」というと、「37.5度か。これは平熱ですよ」といわれるそうです。

末吉 たしかにうちの会社にいる外国人の同僚たちもみんな薄着ですね。

シマジ わたしは毎年スコットランドにシングルモルトを買い付けにいきますが、夏でもダウンを持って行きます。でも向こうの人は半袖に短パンですよ。カメラマンが写真を撮るとき「シマジさん、ダウンは脱いでください。一緒に写ると変ですよ」というんで撮影のときだけは脱ぎますけどね。

篠宮 よくわかります。われわれ日本人は寒がりですよね。外国人はその点本当に寒さに強いです。

シマジ スコットランドの夏の最高気温は25度くらいです。だからこんなに美味しいシングルモルトが出来るんです。そうだ、今度はポートエレンを飲みましょうか。

篠宮 ホントですか。

ヒノ これは最近買ったものですよね。それにしてもこの減り方は尋常ではない。

シマジ この前、伊勢丹のサンデーバトラーのミズマと常連のカネコと『シン・ゴジラ』を観た流れでここに連れてきたら、すごい勢いで飲まれちゃったんだよ。

篠宮 うん、美味いですね。これがポートエレンの味ですか。

シマジ 末吉も飲むか。

末吉 わたしはこれから会社に戻らなければなりませんので悔しいですけれどやめておきます。

篠宮 こういう孤独なスポーツをしていますと、どんどん真面目に思い詰めて暗くなってしまうんですけど、そんなとき、シマジ先生の本を読んでいると、寛容というか、愛に溢れていて、ふっと力が抜けて救われた気分になるんです。

とくに先生の女性の話がぼくは大好きです。やっぱり男は生命力ですよね。先生みたいな格好いい大人を目指して、ぼくも頑張ろうという気持ちになってくるんです。

シマジ 篠宮さんはいまでも十分格好いい大人ですよ。わたしが75年間生きてきてわかったことは、「人生で重要なのは運と縁とえこひいき」ということです。では乾杯しましょう。

一同 スランジバー!

篠宮 今日はホントにありがとうございました。

〈了〉

篠宮龍三 (しのみや・りゅうぞう)1976年埼玉県生まれ。2004年、27歳でプロ転向。05年フリーイマージョン種目で世界ランク1位となる。コンスタント種目では08年4月、バハマでアジア人初の100メ ートルに到達。09年12月にジャック・マイヨールの最高記録である105メートルを超え、107メートルを記録。10年4月、再びバハマで現アジア記録の115メートル(世界歴代5位)を達成。同年7月には日本・アジア初開催となる世界選手権を誘致し、自らも日本代表キャプテンとして銀メダルを獲得した。現在は国内唯一のプロ選手として競技活動を続ける傍ら、沖縄でスクールや大会を運営。環境イベントなどのプロデュースも行っている。著書に『ブルー・ゾーン』『心のスイッチ』『素潜り世界一』がある。

著者: 開高健、島地勝彦
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1989年に刊行され、後に文庫化もされた「ジョーク対談集」の復刻版。序文をサントリークォータリー元編集長・谷浩志氏が執筆、連載当時の秘話を初めて明かす。

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