広島はなぜ「カープチャンネル」を開設しないのか?

ベースボールでビジネスがわかる⑦
長谷川 滋利 プロフィール

野球本来の「音」を活かせ

球場内の応援にも目を向けてみると、日本の応援は「野球が持つ美しく力強い音」を消してしまっているケースが多いですよね。
 
僕の住んでいるロサンゼルスには、日本からも多くの野球関係者や専門家が視察に来ます。彼らがこちらの野球を観て必ず言うのは「いい雰囲気だね。野球を純粋に楽しめるよ」といったセリフです。そのスタジアムの「雰囲気」の正体は「音」に依っていると僕は考えています。
 
特にこちらのボールパークは、スタンドがマウンドやバッターボックスに極力、近い設計になっていますので、ピッチャーが投じる4シームが空気を切る音まで聞こえてきます。それを打ち返す乾いた打球音だったり、スイング音もクリアですね。例えば今回の日本シリーズだったら、大谷翔平投手の165kmがどんな音を出すのか、どんな衝撃でミットにおさまるのか、聞いてみたいと思いませんか? 

スイングの音まで聞こえるというアメリカの野球場

それを聞くためには、おのずとピッチャーが投げる瞬間からは静寂を作らないといけませんから、またそれが静謐な感じで「雰囲気」を出しているわけです。その静寂の後に、打球の行方に一喜一憂する歓声、あるいはため息が湧き起こる起伏も美しいな、と思います。
 
あるいは、また野球中継の話に戻ってしまいますが、メジャー、エンゼルスなんかはアンパイアの耳のあたりに小型のカメラとマイクを設置して、バッターボックス付近の映像と音を拾ってます。スイングアウトしたバッターが「アウッ」という雄叫びまで拾ってくれて、臨場感がありますね。一瞬、現役時代を思い出しました。

話を戻しますが、日本の球団の多くは応援をファンに丸投げしているのが現状です。それは、ある意味ではビジネスを放棄しているとも言えます。ある程度、球団が主導権を握って、野球本来の音を楽しむという要素もあれば、日本の野球文化はもっと素晴らしいものになる――僕はそう信じています。

 

「鳴り物禁止シリーズ」の導入を

野球とは「音を楽しむスポーツ」ではあるのですが、日本のプロ野球の応援を客観的に観ていると、ユニークで熱心な私設応援団のみなさんが文化、というと大袈裟かもしれませんが、それぞれのチームでオリジナルの応援をしています。あれが楽しくて球場に足を運んでくれているファンも多いでしょう。

先ほどとは矛盾している意見かもしれませんが、それはそれでエンターテイメントとして成立しているなあ、という側面も確かに存在します。
 
だからまずは、例えば「5月のホーム開催12試合は鳴り物禁止で、拍手と声だけで応援しましょう」といった、球団主導で「音を楽しむホームゲーム」のようなシリーズを設置するというのもひとつのアイデアです。

最初はちょっと寂しいと感じるかもしれませんが、やっぱりキャッチャーミットの鳴り方、スラッガーの打球音には必ず誰もが魅力を感じます。そして音に感動した人は必ずまたスタジアムに来てくれます。
 
また、ライトスタンドのどんちゃん騒ぎがなければ、おのずと配球や各野手の動きなど、野球を深くまで観戦することになりますから、ファンの目も養われることになります。
 
もちろんそのぶん、球団は試合前後やイニング間など、イベントやファンサービスなど、営業努力が必要にはなります。それでもプラス面は計り知れないと思います。トライしてみる価値はあるのではないでしょうか。
 
「プロ野球人気は終わった」「球団経営は金にならない」などと言われて久しいですが、今年の日本シリーズを観ていると日本のプロ野球というコンテンツの持つ力、その魅力はまったく失われていません。球団の仕掛け、ファンの姿勢次第でプロ野球はかつての人気を容易に取り戻すでしょう。

そのためには球団とファンが一丸となって恐れずに取り組んでいくことが求められていると僕は思います。

(構成/竹田聡一郎)