減点主義はとらない! セイコーに学ぶ「ものづくり」のスピリッツ

受け継がれる「挑戦する気概」
週刊現代 プロフィール

取引先は厳しく、だからこそ様々な学びがありました。鉄のメーカーから「5ドルだけ安く売るよ」と言ってもらうためには、お客様に精一杯尽くさないといけない。ビジネスは人で決まる。必要であれば、取引先のグラスが空になった瞬間、ビールを注ぐなど当たり前のこと(笑)。

例えば先日も、海外から大事なお客様がいらした時、私自身が重いバッグを持ってエスコートしました。人には、下の立場で人間力を磨かなければ身に付かないことが、たくさんあるのだと感じます。

ライバル

クオーツ腕時計が世界を席巻してから、時計の製造が盛んなスイスでは、国策で企業が連携し、高級機械式時計で巻き返してきました。

 

当社にも「グランドセイコー」など、卓越した技術を持つ名工でなければ製造できない超高精度の機械式時計の専門の工房があります。その技術力は、本来ライバルであるスイスの栄誉ある時計のグランプリで賞を受賞するほどです。

名工の育成には10年以上かかり、しかも修業すれば誰もが名工になれるわけではありません。一方で、当社のスローガン「時代とハートを動かすSEIKO」にある通り、便利なものを作るだけでお買い求めいただける時代ではないこともわかっています。

技術力を高めるだけでなく、「ハートを動かす」ような商品をどうしたら作れるか考えています。

スイスと日本は、電車などの時間が正確な国と言われます。いずれも時計の生産地であるため、「時」に対する向き合い方が、他国より進んでいるのかもしれません。時計は自分の分身として、価値観や遊び心をさりげなく表現してくれます。

たとえば「アストロン」はグローバル、正確性といった価値観を表しているはず。そして、当社が技術革新を重ね、同時に名工を育てているのも、世界中のお客様の人生に寄り添いたいからです。心躍る瞬間と感動をお届けするブランドを目指して参ります。

(取材・文/夏目幸明)

服部真二(はっとり・しんじ)
'53年、東京都生まれ。'75年に慶應義塾大学経済学部を卒業し、三菱商事へ入社。'84年に精工舎(現セイコークロック、セイコープレシジョン)へ入社、'03年にセイコーウオッチ代表取締役社長へ就任、以来現職。'10年にセイコーホールディングス社長に就任、'12年からは会長兼グループCEOも兼任する

『週刊現代』2016年10月29日号より