「ワタミ低迷→鳥貴族躍進」は日本経済危機のシグナルか?

デフレが原因か、それとも…
加谷 珪一 プロフィール

「デフレの元凶」ではありません

なかなか状況を改善できないワタミとは正反対に、絶好調なのが鳥貴族である。女性でも入りやすい明るい店舗と、何より280円均一という分かりやすい価格体系がウケて、業容を急拡大させている。

2010年には177店舗だったが、毎年、急ピッチで新規店舗をオープンしており、現在では500店舗に迫る勢いだ。ワタミは大量閉店で逆に約500店舗を切っているので、鳥貴族はすでに店舗数においてはワタミと肩を並べていることになる。

各店舗の売上げが好調なことから、鳥貴族の2017年7月期における業績は、売上高、経常利益とも約25%の増加を見込んでいる。店舗については、直営店で80店舗、フランチャイズ店で20店舗の合計100店舗を新規出店するという強気の計画だ。

ワタミをはじめとする既存の居酒屋は苦戦が続き、280円(税抜き)均一を謳う鳥貴族が躍進していることで、メディアでは「デフレ再燃」といった見出しを目にする機会が多くなっている。

かつて、牛丼チェーン各社やサイゼリアなど低価格な外食チェーンは「デフレの申し子」などと呼ばれていた。場合によっては「デフレの元凶」などと、デフレを引き起こす原因になっているという見方まであったくらいである。

では今、日本は再びデフレに戻ってしまったのか。

今年に入ってから消費者物価指数はマイナスが続いており、8月の数値も前年同月比マイナス0.5%であった(生鮮食料品を除く総合:コア指数)。確かにデフレの足音が聞こえてきている。

だが物価全体の水準が下がるデフレという現象(マクロ)と、個別商品の相対的な価格が下がること(ミクロ)は分けて考える必要がある。

経済学の世界では、物価と需要には逆相関があるとされている。同じモノであれば、価格が高いと需要が減り、価格が下がると需要が増大する。景気が悪く全体の需要が乏しくなると、すべての価格帯において値段を下げない限り、同じ販売数量を維持できなくなるため、皆が値段を下げようとする。

これがデフレの正体である。ワタミにお金を落とさなくなった利用者が鳥貴族にお金を落とすということではない。

ちなみに「ワタミ」「大庄(庄や)」「鳥貴族」の3社で、毎月の全店売上高の伸びと消費者物価指数の伸びを比較すると面白いことが分かる。3社とも、消費者物価指数が上昇すると、売上高の伸びは鈍化しているのだ。

つまり物価が上がると、値段に関係なく消費者は居酒屋への支出を控えるようになる。相関係数を計算すると3社ともマイナス0.5くらいになり、会社ごとの差はあまりない。

これを見る限り、物価が変動することで、ワタミや庄やから鳥貴族に利用者が流れているというわけではなさそうだ。もちろん懐が寂しくなったので、より安い店を選ぼうという消費者心理は存在するが、デフレ懸念が高まっていることと、鳥貴族の躍進とワタミの苦戦を安易に結びつけるのはやめた方がよいだろう。

ましてや、低価格帯チェーンの存在をマクロ的なデフレの元凶とするのは、まったくのお門違いということになる。

 

答えは「流行のサイクル」にあった

外食チェーンの世界には、流行のサイクルというものが存在し、同じ業態を長く続けていると顧客から飽きられてしまう。

ワタミはもともと居酒屋チェーン「つぼ八」のフランチャイズとして事業をスタートさせているが、つぼ八は、かつては破竹の勢いで全国展開しピーク時には600近い店舗数となっていた。しかし現在ではワタミに完全に追い抜かれ、280店舗と規模の小さい展開を余儀なくされている。

つまり、一定のサイクルで顧客はお店を変えていく可能性が高いのだ。そう考えると、つぼ八から巣立ったワタミが、つぼ八のピーク時に近い店舗数あたりから業績が反転し始めたというのは何とも暗示的である。

鳥貴族は、今期末には店舗数がほぼ600に達する。居酒屋の流行サイクルというものを考えると、鳥貴族はこれからが本当の意味での勝負ということになるだろう。

とはいえ、現在、日本経済はデフレ転落の瀬戸際にある。それ自体はまぎれもない事実だ。

本当にデフレに逆戻りする状況となれば、業態にかかわらずどの企業もマイナスの影響を受けることになるわけだが、そのような姿はあまり想像したくないものである。