「余命半年」の宣告…がんの名医ががんになって初めてわかったこと

患者にとって一番大切なものとは?
西村元一
〔PHOTO〕gettyimages

この自分の体験を少しでも役立てたいと思い、同僚の医師や薬剤師らだけでなく、製薬会社にも連絡して、副作用の出方を細かく伝えました。もちろん、すぐに改善は無理ですが、長い目で見れば、きっと意味があると思っています。

辛い抗がん剤治療が終わり、いよいよ次は手術となりました。しかし、検査で新たなリンパ節転移が判明したため、がんが腹膜に転移している可能性も考え「無理に手術をせず、抗がん剤治療を続けようか」と迷いました。

神頼みもした

私は外科医としての自負を持っていますが、手術が絶対に正しいわけではありません。手術が引き金でいろんな合併症が起き、致命的な状況になるかもしれない。

「死」という最悪の事態も頭をかすめました。外科医だからといって手術を簡単に受け入れたわけではありません。

一晩悩んだ後、うまく切除できれば、がん組織が減量できて予後が延びるかもしれないと考え、妻に相談して手術を決めました。妻に話したのは背中を押してもらいたかったのかもしれませんね。

栄養剤を飲むなどして体力をつけ手術に備える一方で、インターネットで偶然知った「がん封じ寺」を夫婦で訪ねました。

医者が神頼みなんて奇妙に思われるでしょうが、がんになってからは「がん」や「命」「死」などの単語にナーバスに反応するようになったのです。これは自分でも驚きでした。手術までに「神頼みでも何でも、できることはやろうじゃないか」という気持ちでしたね。

手術では胃を全摘し、膵臓や肝臓の一部も切除した。手術は成功しましたが、術後に腸液が漏れ出すなどのトラブルもあり、「一から手術のやり直しかも」、「手術しないほうがよかったんじゃないか」と軽いパニックになったこともありました。

医師として、このような合併症は時々経験してきましたが、いざ自分のことになると最悪のことばかり考えてしまう。でも「人間は強し」ですね。その後自然と回復の方向に向かっていきました。

 

患者が言われると傷つく言葉

術後は放射線治療を追加し、免疫細胞治療も受けました。「抗がん剤と免疫細胞治療の両方をやるとどっちが効いたか分からなくなるので、併用しない」という医者もいますが、自分ががんになったら本当に同じことを望むでしょうか? 

ごちゃ混ぜでもなんでも効けばいい。どっちが効いていようが患者には関係ないのです。

もちろん、治療を受けたからといって100%、元の体に戻るわけではありません。いまは小康状態を保っていますが、ストレスを受けると体調が悪くなります。しかし余命半年と言われてから2年弱。いまは「プラスαの人生を生きているのだ」と前向きに考えるようにしています。

僕は以前、進行がんの患者さんから「先生はがんになったことがないから分からないよね」と言われたことがあるんです。その言葉がずっと頭に残っていました。

自分は「がんを知っているフリ」、「がん患者のことを分かっているフリ」をしているだけなんじゃないかと、思うことがあった。自分ががんになって、やはりその通りだったと気づきました。