「爆買い」の次は「爆留学」!? 東大に中国人学生が殺到する理由

報われない社会で暮らすよりは
中島 恵 プロフィール

努力が報われないなら日本に行く

――たしかに、そうした中国での苛烈な競争に比べると、日本への留学はずいぶん効率的でしょうね。

そうなんです。さらに言えば、中国社会のデフォルト設定である「格差」「不公平」も、大きく影響しています。「高考」には、地域ごとの格差が見受けられるんです。

大学の合格者数は、試験の段階で地域ごとに割り振られていて、たとえば北京大学は、北京市出身者は1000人取るのに、四川省からは50人しかとらない(数字は非公表)、といったことがありえ、地方の学生には圧倒的なハンデがあるのです。

どんなに努力しても報われない可能性があり、「だったら日本に行くよ」と考える学生も少なくありません。

――日本の「公平性」に憧れて、やってくるわけですね。

そうです。「競争を避けたい」という後向きな理由だけではなく、むしろ「日本に憧れて」という要因も大きい。中国の中高年インテリ層は「ジャパンアズナンバーワン」の時代をよく知っており、日本に対していいイメージを抱いています。

若者が日本へ留学することは彼らのその後のキャリアにとって大きなプラスになります。アニメや漫画を通して日本に憧れを抱いている学生も少なくありません。私の知り合いの中国人留学生には、漫画『ラブひな』(主人公が東大に合格した途端モテモテになる)を読んで東大を目指した中国人の男の子もいますよ。

中国の「ゆとり世代」

――優秀な人はアメリカに行くというイメージもあります。

もちろん、ものすごく優秀な学生は、アメリカのスタンフォード大やハーバード大に行きます。ですが、そこまでの頭脳は持たないけれど、そこそこ優秀で、ちょっとおっとり型の学生にとって、日本はある意味で、「一発逆転」「起死回生」の場になるんです。

また、先ほどの「立身出世主義」とは矛盾するようですが、日本で「ゆとり世代」と言われるのと同様、中国でも、上昇志向がそれほど強くない若者が増えています。90年代以降に生まれた「90后(ジウリンホウ)」と呼ばれる人たちですね。

私が取材したなかにも、プラモデルが大好きで、日本のおもちゃメーカーに就職した男の子がいますが、「好きなことをする」「上昇志向よりもやりがい」といった感覚を持つ彼のような若者にとって、日本は非常に「効率のいい」場所なんです。

アメリカに行くほど頑張らなくても、相応の成果が手に入る「いい湯加減」の場所とでも言うべきでしょうか。

――なるほど日本への中国人留学生は、ある意味で変化の時を迎えつつある中国の象徴なのかもしれませんね。

そうかもしれません。興味深いのは、日本では、「立身出世主義」→「ゆとり世代」と順を追って生じたように見える現象が、中国では同時期に現れていることです。中国では、一部の学生は国内で激しい競争に打ち勝つためがむしゃらに努力し、他方でサラリと日本へ留学をして、効率的に成功を収めようという学生もいる。

こうした、一見矛盾した特徴を持つものが同時期に現れるというのは、中国ではよくあること。その、様々なものを同じ土地に包み込んでしまう度量の大きさと桁違いのスケールこそが、中国の魅力だともいえるでしょう。

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