「子育て支援」が日本を救う!統計分析が示す国家戦略の“正解”

これほど効率の良い投資は他にない
柴田 悠 プロフィール

子育て支援が「経済を成長させる」

他方で、日本での労働生産性と経済成長率の従来の関係をもとに推計すれば、労働生産性の成長率が0.19%ポイント上がると、経済成長率(人口1人当たり)は0.23%ポイント上がる見込みだ(前ページ図1)。

これはもともと、保育サービスにGDP比0.1%分の追加予算を投入することによって見込まれる効果だった。したがって投資効果として見ると、0.23を0.1で割って「2.3倍」という倍率になる。

データや推定方法が異なるので単純な比較はできないが、日本での公共事業の投資効果である「1.1倍」と比べると、保育サービスの投資効果のほうが大きいのではないかと期待できる。

つまり保育サービスは、公共事業よりも経済波及効果の大きい投資先となることで、労働生産性と経済成長率をより効率的に高め、経済停滞から日本を救うのではないかと期待できるのだ。

経済成長率が高まれば、日本国内への投資も増えて、国内の生活はより豊かになるだろう。

ただし、人口減少に加えて、労働時間も(過労防止・生産性向上・希望出生率実現のために)減らしていかなければならない今後の日本では、労働生産性の上昇が従来どおり経済成長率の上昇に寄与していくのかどうかは、検討の余地があるかもしれない。

子育て支援が「子どもの貧困を減らす」

さらに、「子育て支援が日本を救う」のは、「財政を健全化させるから」や「経済を成長させるから」だけではない。「子どもの貧困を減らすから」でもある。

 

これも具体的な数字で見てみよう。保育サービスへの政府支出をGDP比0.1%(0.5兆円相当)だけ増やすと、子どもの相対的貧困率は、数年以内に0.8%減る見込みだ。さらに、それに加えて児童手当もGDP比0.1%(0.5兆円相当)だけ増やすと、子どもの相対的貧困率は合わせて1.4%減る見込みだ。

手頃な認可保育サービスが増えれば、母親が働きやすくなり、共働きしやすくなり、家計が安定する。また、保育サービスが安くなることによっても、家計は助かる。さらに、児童手当が増えると、もちろんそのぶん家計の収入が増える。こういった家計の安定によって、子どもの貧困が減っていくのだ。

なおOECDの統計分析によれば、子どもの貧困が減ることは、長期的には、経済成長率の上昇にもつながると考えられる。したがって、子育て支援は、子どもの貧困を減らすとともに、長期的には経済成長率を高めるとも期待できるのである。

出生率を引き上げ、自殺率を抑制する

以上で紹介してきたように、保育サービスを中心とした子育て支援は、労働生産性を高めることによって「財政を健全化させる」「経済を成長させる」ことが見込まれると同時に、「子どもの貧困を減らす」ことも見込まれる。この3つの理由から、「子育て支援は日本を救う」と期待できるのである。

さらにいえば、拙著『子育て支援が日本を救う』では、上記の3つの波及効果に加えて、保育サービスに見込まれる波及効果をさらに2つ紹介している。それらは、効果の量はあまり大きくはないものの、「出生率を引き上げる」という効果と、「自殺率を抑制する」という効果だ。

そして、ここまで幅広いポジティブな波及効果は、保育サービス以外の社会政策には見出すことができなかった。この「波及効果の幅広さ」という点から見ると、いわば、「保育サービスを中心とした子育て支援こそが日本を救う」とも考えられるのである。

柴田 悠(しばた・はるか)
1978年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。博士(人間・環境学)。京都大学総合人間学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員PD、同志社大学政策学部任期付准教授、立命館大学産業社会学部准教授を経て現職。専門:社会学、社会保障論、幸福論。著書に『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、2016年)、共著に『Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia』(Brill, 2015)などがある。