「子育て支援」が日本を救う!統計分析が示す国家戦略の“正解”

これほど効率の良い投資は他にない
柴田 悠 プロフィール

日本では、子育て支援のための政府支出がとても少ない。子ども一人当たりの子育て支援支出は、少しずつ増えてきているものの、いまだに、先進国平均の「半分」にすぎない。

子育て支援に巨額の予算をつぎ込んでいる国は、財政状況が良好だ。とくに、2000年代半ば以降のスウェーデン・フィンランド・ノルウェーなどでは、政府純債務残高が無く、むしろ「黒字」にさえなっている。

他方で、その3分の1から2分の1ほどしか子育て支援に予算をつけていない日本では、政府純債務残高はGDPの1.2倍を超えている。これは先進諸国の中で最悪だ。

もちろん、日本政府の債務は主に日本国内での借金であるため、債務不履行になるリスクは比較的低いと言われている。しかし、「債務無し」「黒字」の国に対しては、さすがに財政状況で「負け」を認めざるをえないだろう。

子育て支援が「財政を健全化させる」

先進諸国のデータの統計分析から私が得た結論の一つは、「子育て支援が日本を、財政難から救う」というものだった。では、どういうメカニズムで、子育て支援は財政難から日本を救うのだろうか?

 

私の分析では、上記のメカニズムは、つぎのような先進諸国の傾向として見出された。

まず、保育サービスへの政府支出が増えると、認可保育サービスが質・量ともに改善されて、母親たちは安心して子どもを認可保育所や認可ベビーシッターに預けやすくなる。

すると、働く母親が増える。さまざまな職場で女性が増えて、女性のアイデアや能力が活かされやすくなる。それにより国全体で、労働者の労働生産性が高まる。すると税収が増えて、財政の余裕が増える(つまり財政の健全化が進む)。

「職場で女性が増えると、労働生産性が上がる」という先進諸国の傾向は、日本の企業でも近年見られる傾向だ。

たとえば、日本の企業約1000社の2000年代の時系列データを分析した研究によれば、「正社員での女性率が高まると、同時に企業の利益率も高まる」という傾向が見られたのだが、中途採用の多い企業やワークライフバランス施策が整っている企業ほど、この傾向がより顕著だったという。

つまり、人件費節約だけでなく生産性向上も通じて、女性の活躍が企業業績を高めていると考えられるのだ。

同じことは、スウェーデン・フィンランド・ノルウェーなどの政策でも言える。それらの国は、2000年前後から、保育サービスの予算を大幅に増やし、女性の就労を全面的に支援するようになった。おそらくこれが一因となって、2000年代半ば以降、財政を「黒字」に保てるようになったのだろう。

財政難に苦しむ日本は、こういった先進諸国の経験から、学ぶことができる。先進諸国の傾向が日本にも当てはまるとするならば、保育サービスの予算が増えて、保育サービスが質・量ともに改善されていけば、母親が働きやすくなり職場で女性が増え、労働生産性が上がり、税収が増えて財政の健全化が進むだろう。

これを具体的な数字で見てみよう。仮に、保育サービスへの政府支出をGDP比で0.1%(0.5兆円相当)増やすと、数年以内に、女性労働力率(労働力人口に占める女性の比率)は0.12%ポイント上がり、労働生産性(1労働時間当たりの実質GDP)の成長率は0.19%ポイント上がる見込みだ(図1)。

このようにして保育サービスは、労働生産性を高めることにより、日本を財政難から救うと期待できるのである。

図1 政策効果の予測値
(注)柴田悠『子育て支援が日本を救う』(勁草書房、2016年)で行った9つの統計分析から得られた結果の主要部分を、一つのフローチャートとしてまとめたもの(構造方程式モデリングは用いていない)。使用データは、日本・欧米を含むOECD28ヵ国1980~2009年(主にはデータが揃いやすい2000年代)の国際比較時系列データであり、OECD・世界銀行・WHOがインターネット上で公表した数値。主に2000年代においてOECD諸国で見られた平均的な傾向のうち、「偶然では説明しがたい(=有意な)傾向」のみを、矢印で表現している。矢印に付記された数字は、統計分析によって推定された「係数」(5%水準で有意)。
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ただし日本では、女性の働きやすい労働環境がまだあまり整っていないため、女性の労働参加が全体の労働生産性の向上につながる度合いは、先進国平均よりはまだ小さいかもしれない。その点では、上記の数字は、女性労働力率が増える初期段階では、もっと小幅な効果の数字にとどまるかもしれない。

それでも、いずれ女性労働力率が先進国平均並みになれば、政策効果は上記の数字に近いものになるだろう。