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麻薬犯虐殺の次は原発も視野に…フィリピン大統領の暴走はまだ序の口?

意外としたたかな面も見えてきた
大塚 智彦 プロフィール

麻薬の次は「煙草」

麻薬対策はまだ道半ばとして、現在の方針をさらに継続することを明らかにしているが、10月10日、今度は「フィリピン全土の公共の場での全面禁煙」という方針が新たに示された。

これはポーリン保健相が明らかにしたもので、「公共の場での全面禁煙」とする大統領令に、ドゥテルテ大統領が10月末までに署名するという。

「公共の場」とは単に公共施設内を指すだけでなく、保健相によると「公園、バス停、車内など、屋内外に関わらず公共の場」とみなされることから、事実上、個人宅以外での喫煙がほぼ全面的に禁止されることになるという。

ドゥテルテ大統領は大統領就任前のミンダナオ島ダバオ市長時代に同様の「全市禁煙条例」で喫煙率削減の効果をあげている。

麻薬対策も、もともとダバオ市内で自警団、私設処刑団による麻薬犯罪者殺害を暗黙の了解として認めたことにより絶大な効果を収めている。ドゥテルテ大統領が打ち出す過激な政策は、実はどれも市長時代に取り組み、それなりの実績を残したものばかりなのだ。

市レベルから国レベルに対象を拡大した背景には、市政で得た自信の裏付けがあるわけで、実は有能な政治家なのではないか、との見方も広がっている。

フィリピン国民の高い支持率にも、こうした「実績に基づく決断力、行動力」という側面への評価と期待が込められているのは間違いないだろう。

 

原発稼働にも前のめり

ドゥテルテ大統領が次々と打ち出した「ドゥテルテ色」が、その強烈な個性と、揺るぎない信念に基づく実行力とによって、国民の絶大な支持を得ているのは繰り返すまでもない。

10月6日に公表されたドゥテルテ政権の政策に対する「満足度」の世論調査(9月24日~27日に成人1200人を対象に民間の調査機関SWSが実施)では、「満足」と回答した人が76%に達した。これは歴代政権と比較してもラモス大統領に次ぐ高い数字となっている。

さらに10月12日に発表された別の世論調査(9月25日~10月1日に全国で1200人を対象に実施=民間調査会社パルス・アジア)では86%の国民がドゥテルテ大統領の業績を評価し信頼していることがわかった。

こうした高い支持率に背中を押された結果なのか、ドゥテルテ政権は歴代政権が踏み切れなかったもう一つの禁断の実に手を付けようとしている。原子力発電所である。

休眠中のバターン原発 〔PHOTO〕wikipediaより

首都マニラの西、マニラ湾を挟んだバターン半島モロンにフィリピン初の原発がある。この原発は、1977年にマルコス大統領の指示で建設が開始されほぼ完成していたが、1986年にマルコス政権が崩壊したため、コラソン・アキノ大統領によって稼働が凍結された経緯がある。

その後、慢性的なフィリピンの電力不足の切り札として歴代政権が「原発稼働」を打ち出したが、安全面や財政面の問題、さらに東日本大震災による福島での原発事故などの影響もあり、本格的な稼働は見送られてきた。

ほぼ完成している原発だけに、維持費がかさむことから、近年では、入場料を徴収して観光客に施設内部を見学させるなど、一種の観光地と化していた。

ドゥテルテ政権発足後、エネルギー省のクシー長官は、国際原子力機関(IAEA)関係者に対して「2030年までに年平均5%増の電力需要が見込まれている」と原発の必要性を説明したという。

そして9月16日には国内外のメディア関係者、上院エネルギー委員会のメンバーなどを同省が招待して原発視察ツアーを実施。国家電力公社の職員が内部を案内するなど原発稼働に向けた動きが活発化しているのだ。

ただ、長年凍結状態にあった原発を稼働させるには少なくとも10億ドルの費用が必要との試算もあり、地熱発電や風力発電など現在進めている電力政策でも十分に需要は賄えるとの指摘もある。

さらに財政面に加えて最も関心が集まる「安全面」については、まだまだクリアしなければならない課題が多く、本格的な稼働には時間がかかるのが現状だ。それだけに、周辺国からも拙速な対応は避けるべきだとの声があがっている。