科学者が警告!「歩きスマホ」はこんなに危険。思った以上に上の空

自分だけは大丈夫なんてことはない
小塚 一宏 プロフィール

1秒目を離すと車は28メートル進む

日本では、1999年に施行された改正道路交通法でクルマ運転中の携帯電話使用が禁止された。また2004年の改正道路交通法で罰則が強化された。

公益財団法人交通事故総合分析センターの調査によると、日本における携帯電話等使用違反による検挙件数は2014年中に約110万件、1日約3,000件にも上っている(参照:交通事故総合分析センター「携帯電話等の使用が原因となる事故の分析」)。

携帯電話等を使用していた事故は、20~30歳代の比較的若い運転者に多い。同事故件数のうち、画像注視によるものは2010年以降増加傾向で推移している。

筆者は、2004年から実車を運転中のドライバーが携帯電話で通話やメール操作する場合の視線特性を計測してその危険性を検証する研究を行ってきた。

実車を運転中のドライバーは、通常走行(無負荷)の場合には、無意識に視線を左右と前方に幅広く送って安全を確認しながら走行している。

【クルマで通常走行時の視線軌跡(右目)と停留点】視線は左右に幅広く移動し、かつ前方の中央付近に停留点も見られる(白円で停留時間の大小を示す)

通話の場合には、左右やバックミラーなどへの視線がほとんどなくなり、視野は前方中央寄りになって狭くなり、かつ、ぼんやり見ている、うわの空状態となった。

メール閲覧または文章作成・メール送信する場合、実験は大学内の道路で行った。視線は携帯画面と前方の間の直線的な移動となり、画面に1秒以上停留する現象も見られた。

【クルマで文章作成・メール送信走行時の視線軌跡(両目)と停留点】視線軌跡は画面と前方の往復となり、左右への視線はなくなる。携帯画面(右下)上に長い時間の停留点(白い円)が多く見られる

1秒間に走行する距離は、時速50kmで約14m、時速100kmで約28mである。運転中の1秒間の画面注視で14m~28mを全く周辺確認せずに走行するのでいかに危険かが分かる。

歩行中やクルマ運転中にスマホを使用することは、同時に複数のことを行うマルチタスクとなる。

多くの人は、脳の認識機能は関心が高いタスクである通話やメール操作に集中してしまい、歩行や運転には注意がほとんど向いていない状態だ。歩行や運転に必要な周囲環境認識が全くおろそかになり、非常に危険である。

最後に“ながらスマホ”の危険性に関する書籍を紹介する。マット・リヒテル(ニューヨーク・タイムズ記者で2010年にピュリツァー賞受賞)著『神経ハイジャックーもしも「注意力」が奪われたら』が2016年6月に発刊された。

2006年にアメリカユタ州でドライバーがクルマ運転中に携帯電話でメール操作をしてセンターラインをはみ出し、他の2車両が衝突して科学者2名が亡くなった事故を題材とした作品だ。欧米の神経科学者に綿密な取材をして最新の神経科学の研究成果から事故原因を解き明かしている。

人間の脳の情報処理能力、同時に複数のことを行うマルチタスクの問題、人間の注意力などの観点から、現代人が最新テクノロジーやスマホに時間や注意力を奪われること、そしてその根本要因が「つながりたい」という人間の根源的欲求にあることが解き明かされている。

 

筆者は、この著書の解説として、クルマ運転中・自転車運転中・歩行中の“ながらスマホ”の危険性検証実験について視線計測実験データを付けて書いているので参考にしていただければ幸いである。

また、より詳細な記事として、筆者が電子情報通信学会FR誌2016年10月に解説論文(小塚一宏「歩行中・自転車運転中の”ながらスマホ“時の視線計測と危険性の考察」電子情報通信学会 IEICE Fundamentals Review, Vol.10, No.2, pp.1-8, 2016 年10月)を書いたので興味のある方はぜひ読んでいただきたい。こちらは、会員・非会員を問わず、ネット上で無料公開されている。

小塚一宏(こづか・かずひろ)
昭和43年名古屋大学 工学部 電子工学科卒。昭和48年同大学院博士課程修了。同年(株)豊田中央研究所入社。以来、自動車用エンジンの燃焼研究、ETC(自動料金収受システム)の基礎研究・開発などに従事。平成14年愛知工科大学工学部着任、平成23~26年同工学部長・工学研究科長。現在、教授・高度交通システム(ITS)研究所長。博士(工学)。 IEEE International Vehicle Electronics Conference(IVEC)2001 Best Paper Award受賞、第12回ITSシンポジウム2014優秀論文賞受賞。著書「ドライバー状態の検出、推定技術と自動運転、運転支援システムへの応用―分担執筆:ドライバーの挙動計測と運転への集中力の評価方法」(株)技術情報協会