なぜ日本映画の「リメイク権」は一大輸出産業にならないのか?

製作委員会方式の謎〈前編〉
寺田 悠馬 プロフィール

日本映画界の特殊事情

製作委員会方式の是非を問う一連の議論を調べると、こうしたクリエイティブな観点からの指摘は、これまでにも諸所で行われてきたようだ。そのため、本コラムでは、あえてクリエイティブ面ではなく、ビジネスの観点に焦点を絞って論を進めてみたい。

2015年の日本の映画市場は2,170億円、うち邦画の興行収入は1,204億円であり、ヒット作の有無に左右されるものの、構造的にはマイナス成長が続いている。

一方で、米国の映画市場は111億ドル(約1兆1,419億円)。この大半を占めるアメリカ映画が、本国の外でも、日本を含む世界各国に市場を持つことは言うまでもない。

さらに、同年の中国の映画市場は440億人民元(約6,775億円)であり、成長率は今でも二桁を維持している。この急成長を牽引しているのは、市場の62%を占め、271億人民元(約4,172億円)の興行収入を誇る中国の国産映画である。

こうした巨大市場において、邦画が「外国映画」として公開されてヒットする例は残念ながら稀だ。だが一方で、日本映画を、アメリカもしくは中国映画としてリメイクしたいという海外からの需要は、じつは非常に強い。

このようなリメイク案件を、米中のみならず、諸外国の映画会社と円滑に交渉して、安定的に成立させていくことができれば、リメイク権の対価として当初支払われる金額に留まらず、海外市場の興行収入や二次使用収入に基づく利益への参加権も含め、大きな経済効果を期待することができる。

つまり、日本のエンターテインメントが諸外国で高い評価を受ける中、日本映画のリメイク権の販売は、一つの立派な輸出産業として確立される可能性を秘めているのだ。

実際、日本の原作に基づく外国映画の製作決定がニュースとなる例は、近年増えている印象がある。

しかし、より詳細に調べると、例えば桜坂洋氏の著作『All You Need is Kill』(2004)をベースとしたアメリカ映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)のように、日本では映画化されていなかった原作が、海外で初めて映像化された例などを除くと、一度国内で製作委員会方式による映画製作が行われ、さらに海外でのリメイクが実現した作品は、じつはあまり多くないことに気づかされる。

むしろ、交渉の過程、あるいは交渉のテーブルにつく以前に頓挫してしまった日本映画のリメイク案件の数を調べてみると、成立した幾つかの案件は、一部の関係者の多大な努力によって、例外的に実現したものと理解する方が正しいようだ。

そして、一つの輸出産業を確立する機会がありながら、こうしたリメイク案件が頓挫してしまう背景を調査すると、映画製作の事業母体が、法人格を持たない製作委員会であるという日本の特殊事情が、ここでも浮かび上がってくるのだ。

 

著作権者は誰なのか?

諸外国の映画会社に話を聞くと、日本映画のリメイク権を取得しようとする際、まず問題となるのが、映画の著作権を誰が保有しているのかが分からないことだと言う。

映画のポスターやDVDのパッケージなどには、「©:〇〇製作委員会」と表記されることが多いため、諸外国の映画会社としては、当然、製作委員会が著作権者であると考え、連絡を取ろうと試みる。

いわゆる「会社」が相手であれば、法人登記が行われているため、法務局に照会すれば、誰でも所在地や役員の氏名などを調べることができる。しかし、製作委員会は「会社」ではなく任意組合であるため、その所在と組合員の構成は、どこかに登録されるわけではなく、当事者のみが知る情報となってしまっている。

そのため、諸外国の映画会社の視点からすると、日本のエンターテインメント業界に親しい知人がいなければ、日本映画の著作権者が誰なのかを知ることさえできない状態が生じている。リメイク権の販売を輸出産業として考えた場合、この時点で、すでに買い手の数が大幅に減ってしまっているのだ。

さらに、外国企業が日本映画の著作権者をより詳細に調べていくと、多用される「©:〇〇製作委員会」という表記にかかわらず、日本映画の法的な著作権者は、じつは製作委員会そのものではないことが明らかになる。

任意組合が法人格を持たないということは、つまり、法的な権利義務の主体となる資格を持たないということであり、結果、製作委員会は、著作権という資産を「所有」することができない。そのため、日本映画の著作権は、法的には、製作委員会そのものではなく、全組合員、つまりすべての出資者によって「共有」された状態にある。製作委員会方式を用いて映画製作を行うと、一つのものを複数の者が一緒に保有するという、歪な権利関係が生じるわけだ。

一本の日本映画につき、複数の著作権者が存在するため、諸外国の映画会社は、契約内容についてすべての著作権者と合意に至ることができなければ、リメイク権を取得することができない。

製作委員会方式による機会損失

無論、こうした案件が浮上した場合、実際の運用としては、前述の「幹事」もしくは組合員の一者が、製作委員会を代表して海外の映画会社と交渉にあたる場合が多いようだ。

しかし、仮に交渉が二者間で行われた場合でも、最終的に契約を締結する段階になれば、海外の企業としては、契約書そのもの、あるいは、リメイク権の取引に合意する権利が、代理人に法的に委任されていることが確認できる委任状に、全著作権者が押印することを求める。これは、取引の正当性を担保するための当然の措置と言えるだろう。

ここで問題となるのが、製作委員会が「会社」ではないため、一度映画が製作され、日本での劇場公開が終わった後は、日常的な営業を続けているわけではないという点だ。実質解散してしまった状態にある製作委員会の全組合員を再び招集し、押印のために、それぞれの会社の稟議を通す手続きは、煩雑になりがちである。

さらに、日本映画が公開されて日が浅いうちはまだしも、当初の劇場公開後、何年も経過した後にリメイク案件が浮上した場合、全者の押印を取り付けることは、ほとんど不可能になっている場合がある。

つまり、組合員の一部が会社清算をしている、もしくは、企業は存続しているものの担当部署がなくなっている。あるいは、委員会組成時の担当者が部署異動しているため、押印手続きを行える適任者が社内にいない。こういった諸々の事情によって押印が不可能な状態が、全組合員のうち一者にでも生じている場合、案件はその時点で頓挫してしまう可能性があるのだ。

製作委員会方式の特殊性に起因するこうした問題によって、交渉が長引き、弁護士費用など手続きのコストばかりが嵩むため、諸外国の映画会社が、日本映画のリメイク権の取得を断念する例は、残念ながら、非常に多い。

もちろん、あらゆる困難をすべて克服して、日本映画の海外リメイクが実現する例も散見されるが、それらは前述の通り、国内外の一部関係者の尽力によって、例外的に成立した案件と考える方が正しいようだ。

日本映画のリメイク権に対する、諸外国からの需要を考慮すれば、本来このビジネスは、より本格的な輸出産業として確立されていても全く不思議ではない。つまり、製作委員会方式を用いることによって生じている機会損失の金額は、決して無視できない規模に及んでいるのだ。

* * *

今月の記事では、製作委員会方式という資金調達方法の、主にビジネス面における問題点を検証してきた。

映画の著作権の存続期間は、著作権法によって公表後70年間と定められている。だが、一等地に建てられた分譲マンションの所有権が複数者に分散しているため、建物が老朽化しても一向に再開発が進まない土地のように、製作委員会方式で製作された日本映画の著作権は、実施的に、長期的な運用ができない資産と化してしまっているのだ。

しかし、日本映画の大半がこの方法で製作されているという現状に目を向けると、製作委員会方式には、他方で、多くの利点があると考えるのがごく自然である。来月は、特に組合員の視点から、製作委員会方式の利点に焦点を当てて論を進めたい。

こうして、映画製作に関わる複数のステークホルダーの利害を公正に検証することによって、冒頭で述べた、日本映画に原作を提供する漫画家や小説家たちの利害が、明らかになってくると思うからだ。

後編はコチラ

※本コラムの執筆にあたり、青山綜合法律事務所の照井勝弁護士にアドバイスをいただきました。

参考文献)
一般社団法人日本映画製作者連盟ホームページ
・Box Office Mojo
・“China Box Office Growth at 49% as Total Hits $6.78 Billion”  Variety.
 

寺田悠馬 (てらだ・ゆうま)
1982年東京生まれ。株式会社コルク取締役副社長。投資銀行、ヘッジファンドにて国内外勤務を経て現職。コロンビア大学卒。著書に『東京ユートピア 日本人の孤独な楽園』(2012年)がある。Twitter: @yumaterada

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