香港「裏ビジネス街道」を歩く~運び屋横丁、ボートピープル…

『クレイジージャーニー』裏日記⑧
丸山 ゴンザレス プロフィール

ボートピープルたちの本音

最後に香港の「原点」を訪れてみることにした。

いまでこそ巨大な商業都市となった香港だが、もともとは小さな漁村が始まりだった。その当時に近いかたちで暮らしているボートピープル(水上生活者)が現在もいるというので、取材してみることにした。

香港島の銅鑼湾の堤防の設置されている港に小舟が並んでいる。

近寄ってみると、艘ごとに人が乗船しているのがわかる。しかし、よほど注意してみないと係留されているだけだと思って見過ごしてしまう。

さすがに水の中に入っていって取材することは難しいので、陸地に近い船に声をかけてみることにした。

「すいません。ここの船には人が暮らしているんですか?」
「ああ、そうだよ」
「ずっとですか?」
「用事がないと陸にはあがらないかな。郵便も届けてくれるし、仕事もある」

「郵便が届くんですか? それに仕事もですか?」
「船ごとに住所がちゃんとあるんだよ。仕事は客を乗せて港を遊覧したり、食事を出してレストランになったり。大きな船だったらそれができるからさ」
「そうなんですか……」
「ところであんたもどうだい?」
「このあと用事があるので、またあとでタイミングあればお願いします」
 
二度と来る気のない客の典型のような返事を残して立ち去った。
 
私が取材した銅鑼湾は香港経済の中心地である。そんな場所に多くの水上生活者がいたことも驚きであるが、その暮らしの実態も予想外だった。

水上生活者は多くの場合、漁業で生計を立てる。それがサービス業で成り立っているというのだから、香港らしい生活スタイルなのかもしれない。だが、こうした暮らしが今後も続いくのかといえば、そうでもないそうだ。政府の規制ということではなく、仕事が限られることや、子どもの教育のために陸地にいたいという住人たちの希望から、若い世代は陸上生活を選んでいるのだそうだ。

経済や教育は、香港人にとって生命線である。中国共産党の影響が強まって行政府はすでに対抗しきれない。反発した市民は2014年に雨傘革命を起こした。香港人の根底にあるのは、自主独立した自由を求める精神である。そしてそれを支えているのは、強い経済力と高い教育水準だ。

しかし、香港の体幹ともいうべき両者を伸ばし続けることは、格差を生み続けることでもある。高層ビルを背後に眺めながら水上生活と対比すると、アジアを代表する優等生のイメージの裏にどれほどの格差が潜んでいるのか、これほど残酷に浮き立つ景色もないと思わざるをえない。

歪みが拡大しようとも、香港人で在り続けることを優先する。香港は矛盾を孕みながら前に進んでいくしかないのだ。