# アメリカ # 大統領選挙

トランプの「強さ」と民主党の隠れた「急所」

「利益」と「理念」の板挟み政治
渡辺 将人 プロフィール

そもそも民主党は、リベラル陣営内部の分断に悩まされてきた。

オバマ政権の環境法案、銃規制法案には、炭坑労働者や農村のハンティング愛好者を支持基盤にする大量の民主党議員が議会でノーを突きつけた。オバマの貧困対策と反イラク戦争を支持していたはずのカトリック教会も、人工妊娠中絶と避妊の保険適用外を求めて医療保険改革には反対した。同性婚に反対する黒人教会とLGBTの緊張も消えてはいない。

2016年の選挙は、経済利益で団結していたはずの民主党が、宗教や性的指向などの「理念」の亀裂で引き裂かれる契機になるかもしれない。ヒラリーが競り勝てても、政権運営を支える支持者連合に長期的に不安が残る。

大物日系政治家の空白をどう埋める?

こうした問題意識を背景に新刊『アメリカ政治の壁――利益と理念のはざまで』(岩波新書)をまとめた。

長期の現地取材で、サンダースとヒラリーの争い、トランプ旋風、TPPをめぐる迷走の裏側を追い、筆者の元同僚のオバマ政権高官、ヒラリー陣営幹部らのオフレコ情報からの示唆も盛り込むことで、オバマ政権の功罪、次期政権に積み残される問題を描いた。

普段あまり政治分析の対象にならないハワイも本書では取り上げた。世代交代やエスニック構成の多様化が進むアメリカでは、日系人の政治力が相対的に低下している。ハワイ選出の長老上院議員だった日系のダニエル・イノウエが2012年に他界して以降、その傾向が顕著だ。

イノウエはとりわけ晩年にかけて日本に好意的で、日本外交は遠慮せず「イノウエ・カード」に水面下で頼ることがあった。超党派で深い尊敬を集めていたイノウエ議員の電話は、ワシントンでの効果は絶大であり、ヒラリー・クリントン国務長官もイノウエの依頼ならば耳を傾けた。

イノウエ議員なきあとの日米外交パイプをどうするのか。『アメリカ政治の壁』では、イノウエに遺言で後継を託された日系女性政治家のまさかの落選の経緯を追い、日系人の「非主流化」の将来への含意も掘り下げた。

オバマ政権の迷走、トランプ台頭、ヒラリーの苦悩の背後で、雇用などの経済「利益」とイデオロギーや信仰などの「理念」が厄介なジレンマとして複雑に絡む。新大統領が誰になってもこの「壁」からは逃れられない。