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トランプの「強さ」と民主党の隠れた「急所」

「利益」と「理念」の板挟み政治
渡辺 将人 プロフィール

トランプが組み立てた新たな方程式

共和党は、「不承不承のトランプ支持」が渦巻く党内感情を棚上げするため、ヒラリーへの反発を煽る戦略を採用している。合い言葉は「ヒラリーを牢獄に送れ」だ。

他方、民主党のキャンペーンも結局は「この男を大統領にしてはいけない」という「反トランプ」がよりどころだ。ヒラリーの政策をまっすぐに訴えるだけでは勝てない。

アメリカの二大政党は、共和党が富裕層寄り、民主党が労働者寄りという経済格差に比例した支持基盤を持つと思われがちだ。しかし、経済格差対決がそのまま共和、民主の政党対立という理解は必ずしも正しくない。アメリカの政党は経済的な利害を横断した「理念的」な価値に支えられているからだ。

富裕層優遇税制を掲げる共和党内には、経済的に自らの利益にはなるはずの医療保険改革に反対する中間所得層以下の有権者が多数いる。

彼らが信奉する「小さな政府」は、アメリカ特有の州を基本とした「反連邦政府」(反ワシントン)とも表裏一体だ。「社会主義」は、再分配を意味する経済的概念ではなく、「自由」を否定する「全体主義」の代名詞と捉えられているので、所得階層を横断してアレルギーの対象だ。

また、1970年代の最高裁の中絶合法化判決以降、キリスト教福音派は、経済的に貧しくても、人工妊娠中絶反対を支持した共和党を選んだ。レーガン期以降の共和党は、「小さな政府」「強いアメリカ」「キリスト教」という「理念」で、貧しい白人労働者層をつなぎ止めてきたのだ。

しかし、経済格差の拡大の中、不法移民が凄まじい勢いで増えつつある。職を奪われる恐怖心も増幅している。

こういう状況の下で、反移民や「アメリカ第一」など保守的なメッセージを打ち出しつつ、医療保険の拡充や再分配重視を訴え、保護貿易で国内の雇用を守るという、「文化的には右派的だが経済的には左派的」という人物が登場したらどうか。しかも、どうせ勝ち目のない「第三党」ではなく、二大政党内の正規の候補として出馬すれば……。

文化保守の白人労働者層の支持は必至だ。そう、トランプである。

従来は、共和党内に「小さな政府」の原則を乱す候補者がほとんどおらず、いたところで共和党を飛び出して第三党で出れば敗北は自明だった。トランプは「小さな政府」に拘泥せず、あえて共和党内で指名を目指した。

党派的になれば、党内で「理念」と「利益」の矛盾を抱え込まざるを得ない。その点、既存の共和党にも反感を持つ無党派層を支持基盤にした第三党候補的なトランプは、「利益」と「理念」の美味しいところをつまみ食いできた。いいかえれば、「利益」と「理念」の新しい方程式を組み立てたのだ。

民主党の厄介な内部事情

困ったのはヒラリーの民主党だ。

ポピュリズムで利益の再分配に共和党が踏み込めば、「労働者の党」民主党の存在価値は揺らぐ。

信仰心が強く文化的には保守的だった白人労働者層は、再分配重視という経済利益だけで民主党を支持してきた。トランプの共和党が労働者の経済状況にも手を差し伸べてくれるというのであれば、文化的にしっくりくる方に流れかねない。

実際、共和党大会でのトランプの指名受諾演説は、まるで民主党の政治家のように聞こえるほど、労働者層を意識した「雇用ポピュリズム」で統一されていた。

富裕層への増税もいとわず、医療保険の必要性も認めるというトランプは、これまでの大企業寄りの共和党主流派とは毛色が違い、アメリカ的な意味での「保守主義者」ではない。

トランプに経済利益を梃にする武器を奪われた民主党は、黒人、ヒスパニック系など人種、エスニック・マイノリティ、女性、LGBTなどの権利擁護など「文化」の左傾化で支持基盤に訴える策に打って出ている。

だが、この戦略は、白人労働者層や敬虔なキリスト教徒の民主党内での居心地の悪さを増幅する副作用がある。