なぜ「シダックス」だけが大量閉店に追い込まれたのか?

カラオケ市場は伸びているが…
加谷 珪一 プロフィール

事業展開の2つの方法

シダックスにも1人カラオケの利用者はたくさん訪れており、同社もこうしたニーズはよく理解していたはずである。ただ同社のWebサイトには、「お一人様カラオケ料金は、通常のご案内と異なります」との案内があり、店舗ごとに対応はバラバラだったようである。

もともと、多人数での利用を想定した店舗戦略だったことから、会社全体としての対応が遅れてしまった感は否めない。ここに不振の元凶がある。

ではなぜ、シダックスが食事メニューにこだわり過ぎてしまったのか?

その理由は明白である。今でこそカラオケチェーンとしてのイメージが強い同社だが、もともとは社員食堂の請負事業で成長した会社だった。意外に知られていないが、現在でも売上高の多くは、食堂運営、病院給食などが占めている。

カラオケ事業も、給食事業の延長線上でスタートしており、食事を提供することが大前提だった。宴会需要が多かった時代はこれがうまく作用したが、今となっては、これまでの強みが逆に足かせになってしまった。

企業がある事業分野で成功した後、どのように事業展開をしていくのかについては2つの方向性がある。

一般的なのは、事業の「水平展開」である。同じ事業を異なる顧客層に展開するというもので、社員食堂からスタートしたシダックスが病院給食に進出するというのは典型的な水平展開ということになる。

もうひとつは、ひとつの事業を核に「垂直方向」に事業を展開するというやり方だ。例えばハウスメーカーの大和ハウスは、M&Aなどを通じてデベロッパー業務に進出しており、現在ではメーカーというよりデベロッパーとしての色彩が濃い。

本来、ハウスメーカーはデベロッパーから注文を受けて家を提供する仕事だが、同社は発注者の事業領域もカバーしていることになる。

シダックス再浮上のカギ

シダックスも元々の本業である給食事業者として見れば、カラオケ事業者はむしろ顧客となる業界だが、自らもカラオケ施設の運営に乗り出すことで、両方で利益を出すことが可能となった。

第一興商も本業はカラオケ装置のメーカーなので、自ら、顧客であるカラオケ店の事業を行っていることになる。特に第一興商について言えば、店舗に必要な設備を自前で調達できるため、出店コストを安く抑えられる可能性が高く、その分だけ競争力が増すのは大きなメリットと言えるだろう。

ただ、こうした垂直分野への進出はリスクも大きい。例えばデベロッパーとハウスメーカーは、発注者と受注者であり、本来であれば利益が相反する関係である。

給食事業者とカラオケ事業者も同じで、カラオケ事業者としてはできるだけ安く食材を調達したいが、給食事業者としてはできるだけ高く食材を売りたいというのが、基本的なスタンスだ。

お互いの立場が違っても、市場全体が伸びている間は両方の事業で利益を拡大できるので垂直戦略はうまく機能する。ところが、市場の伸びが鈍化した時には、すべて逆回転になってしまう。最終的にはどちらかを犠牲にするという厳しい選択を迫られるだろう。

では、シダックスの場合はどうだったのか? 普通に考えれば本業である給食事業を優先する道を選びそうなものなのだが、現実はそれができなかった。カラオケ事業の企業イメージが強くなりすぎてしまったのだろう。

結果、どっちつかずの状態に陥り、気がついたときには両者が足を引っ張り合うという最悪の結果に陥ってしまった。大量閉店はまさにその矛盾の現れなのだ。

では、これからのシダックスはどうなっていくのか? カギは同社が持つDNAを発揮できるかどうかにかかっているだろう。

シダックスの創業者である志太勤氏は、ベンチャー・ビジネスの世界では非常に有名な人物である。日本ニュービジネス協議会の会長として、ベンチャー企業や中小企業に対する支援を強化するよう積極的に政治に働きかけたことでも知られている。

同社はベンチャースピリッツに溢れた企業だったはずだが、それでも時代の変化に対応し、垂直戦略を見直すのは容易ではなかったようだ。

ただ、同社は一連の大量閉店でリストラには区切りが付いたとしており、来期以降、業績の底上げを目指すといっている。言葉通りの行動を取れるのか。すべては同社にベンチャー企業としての底力が残っているかどうかにかかっている。

加谷珪一(かや・けいいち)
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「新富裕層の研究-日本経済を変えるあらたな仕組み」(祥伝社新書)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「教養として身につけたい戦争と経済の本質」(総合法令出版)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。