映画版監督と漫画版作者の共演!『海賊とよばれた男』はココがスゴい

紙と映像、こんなに違うから面白い
イブニング編集部

漫画と映画の違いとは?

須本 多津子の話がありましたけど、実は僕、この原作をやる時に、鐡造の奥さんの扱いって、難しいなって思ったんです。最初の奥さん・ユキの扱いが特に。結局僕らは、そこを描かない事にして逃げたんですよね(笑)。でも、映画では、ユキとの恋愛ドラマというか、そこが一つの軸として描かれていて、ちゃんと完結させるじゃないですか。そこがすごい。ユキが鐡造から離れていくシーンも「なるほど、こうすれば共感してもらえたんだ」と、すごく勉強になりました。

山崎 そうだったんですか。

須本 さっき監督が女性陣から言われた意見というのは、漫画でもありまして。多津子がいるのに、ユキを思い出すシーンは「鐡造ひどいんじゃないか」と。だったら、ユキはあえて登場させないで漫画は作りましょうと。

山崎 なるほど、その選択を。

須本 でも映画を見て、あ、こうやればよかったんだと(笑)。

山崎 回想編を始めてください。いきなり店主が「そういえば、ユキは…」と思い出してあの頃の話が4ヵ月にわたって繰り広げられる(笑)。

須本 (笑)。ユキの扱いは完全に映画と漫画の見せ方の違いかなと思いますね。映画ってどこかで恋愛がひとつ縦軸として入っている方が、女性に響くじゃないですか。そういうのはやっぱり意識するんですか?

山崎 そうですね。僕、映画を作る時によく言っているのが「自分の中に一人おばさんを飼っておく」なんです。で、その人に意見を聞きに行くんですよ。

須本 心の中のおばさんですか(笑)。

山崎 これね、ジェームズ・キャメロンがすごいうまいと思うんですよ。彼の中に一人おばさんがいて、その人と対話しながら作っているとしか思えないくらい。特に『タイタニック』の時のディカプリオの見せ方がうまいんです。僕も心のおばさんに聞いた時、「最後に鐡造がユキさんの事を想う所が、女子にはすごい心にくるんじゃないか」って。

やっぱり、ラブストーリーにもしたかったんですよね。ただ、もちろん語るべき話は男社会の堅い話が多いので、そんなにラブストーリーを前面には出せないんですけど、要所要所に現れるラブストーリーっていうのはすごく大事なんじゃないかなと思います。

須本 けっこう早い段階で、ラブストーリーの構成は浮かんでいたんですね。

山崎 ラブストーリーに関してはそうですね。『海賊とよばれた男』って、良くも悪くも『永遠の0』の姉妹編みたいな感じでとらえられると思うんですよね。そうなると『永遠の0』には、あれだけきれいに筋の通ったラブストーリーがあるのに、『海賊』にはラブストーリーが全然ないっていうのは、さすがにまずいだろうと。なんとかしなきゃって、一生懸命考えたのがあの構成です。

須本 なるほど。『海賊』はメインは男のドラマだから、そのまま作ってしまうと、そういう心配があったんですね。

山崎 心配というか、自分の作りたいものとズレるというか、普通に作るとあまりにも経済・ビジネス色の強い話になってしまうので、2時間強という限られた時間の中でそれはきついなと。そこは漫画と大きく違うところかもしれません。

須本 漫画と違うといえば、映画では時間の飛ばし方が、すごくうまいなと思いました。過去と現在を行ったり来たりする、その方法は相当精査して作られたんですか。

山崎 そうですね、脚本打ち合わせは大変でした。物語全部を時系列に沿って見せていくよりは、時系列が混乱していた方が国岡商店の集団としての面白さが見えてくる感じがしたんですね。時間を超えた事情というか、混然一体となった出来事の塊が最後にタンカーをイランに送ってしまうみたいな、……言葉にしづらいんですけど。

映画全体の扱いとしてはそういうふうにしたかったんですよ、今回は。もう混然とさせたかったんです。人間の思い出って混然としてるじゃないですか。突然高校時代の事を思い出したりとか。

須本 確かに。

山崎 学生時代の事を思い出したと思ったら、会社に入った時の事を思い出したり、もっと子供の頃の事を思い出したり。記憶って別に時系列で並んでいないんですよね、頭の中では。鐡造の走馬灯のような映画にしたい一面もあったので、ごちゃごちゃにしたかったんですよ(笑)。

須本 あえて、なんですね。

山崎 原作のボリュームがすごいので、通常の映画の作り方とはちょっと違うんですよね。原因と結果の連続ではなくて、「この時はこの人たちはこういう行動をしました」「この時はこういう行動をしました」と、そういうものを少しランダムにあてる事によって見えてくるものもあるんじゃないかなというのが今回の実験………、実験ていったら語弊があるかな(笑)。

須本 そう考えると、漫画の方が向いてる作品だったんですかね。

山崎 この物語を100%伝えるという意味で言うと、漫画というか尺のある物の方が有利だと思うんですよ。出来事が本当にたくさんあるので。2時間強で見せようとすると、登場人物たちの印象を伝える事しかできないんですよね。

須本 なるほど!

山崎 登場人物に「すごい奴だった」、という片鱗を見せて、観る人にその全体を想像させるというか。それとビジュアルだけで言うと若い時代の映像を見た後に、年寄りになった映像を見ると、ちょっとしみじみするんですよね。これは女子向け作戦なんですけれども、さんざんおじさんの鐡造を見せられた後に、若い鐡造を見せられると、えらいかっこよく見えるんですよ。

須本 岡田君の60代、すごいですよね。驚いたのが、オープニングで岡田君の声が違う人の声に聞こえるくらい、おじさんの声に聞こえたんですよ。あれは何かいじったんですか。

山崎 いじってないです。岡田君ががんばって出してます。

須本 すごい! 全く違う人に思えました。

山崎 岡田君すごいなって思ったのが、現場で一度、鐡造の役に入り込むと、ずっと鐡造のままなんですよ。うちの60代のプロデューサーたちにも「おお、元気だったかぁ」と声かけて、その人たちも「は、店主おはようございます」って言って。もう鐡造として動きまわってるんです、休み時間もですよ。だから、もう60代の重鎮の役者さんと仕事してる感じになるんですよ。空気自体が鐡造になってたというか。現場はやりやすかったですね。岡田君がすごい頑張ってくれたなぁと思います。