香港「ケージ・ハウス・スラム」に丸山ゴンザレスが潜入!

クレイジージャーニー裏日記⑦
丸山 ゴンザレス プロフィール

意外な場所にあった

親切にも不動産屋の店主は、ケージ・ハウスが入っていたというビルを教えてくれた。店からはさほど離れていない。
 
徒歩で20分。その場所にあったはずのケージ・ハウスが閉鎖されているのは一目瞭然だった。建物の2階より上で改装工事が行われていたのだ。先の殺人事件が契機となったかどうかはわからないが、ケージ・ハウスの閉鎖が進んでいるのは事実のようだった。

もうひとつ香港スラムの存在を知るきっかけになったものがある。海外サイトで紹介された数枚の写真だ。香港の住宅事情を伝えるものだったが、屋上にスラムのような小屋が並んでいたのだ。しかし、それ以上の詳細はなかったので、これがスラムと呼べるものなのか確証が持てないでいた。

香港でスラム的なものを想像するとしたら、九龍城砦になるだろうか。1994年ごろまで存在していた、香港の闇の象徴ともいうべき巨大な建造物だ。貧困層の住人たちに混ざって不法移民や犯罪者たちが暮らし、建物は増改築を繰り返し異様な佇まいを見せていた。

世界的にも有名な場所だったのだが、負のイメージを嫌った行政府の方針で住民たちは強制移住させられたうえ、閉鎖され取り壊された。現在では跡地も公園となってしまい、その面影を偲ぶこともできない。
 
居住できる土地が限られる香港では、ケージ・ハウスがそうだったように、建物に工夫をしてスラム化が進む。屋上スペースを有効に活用しようとする発想は理解できる。これまでの経験から「屋上スラムはある」という確信をもって取材にあたることにした。
 
ところが、いざ潜入取材をしてみようとするとこれが意外に難しい。
 
交通網の整備されている香港で、ビルの路地裏をずっと歩くというのはあまりない経験だ。古びたビル裏の道を縦横無尽に歩きまわっている際に気がついたのは、建物ごとに警備員や管理人がいて入り口を守っていること、無人であっても、通りに面した入り口に鍵のかかる扉がある、ということであった。

これが不審者対策であり、不法侵入対策であろうことはすぐにわかった。だが、目指すべきスラムが入っているのはこの先なのである。
 
九龍半島側のエリアを歩きまわって、いくつかのビルにあたりをつけた。共通しているのは10階建て以上のエレベーターのない古いビル。管理人も扉もない。勝手に階段を屋上まで登れるところである。

これが恐ろしく身体に負担をかける。エレベーターなしで15階建のビルを登って降りてを繰り返すのを3回もやれば、膝が笑って力が入らない。一日かけて10個も登り降りすれば、疲労困憊で動けなくなってしまう。

もちろん、何かトラブルがあるかもしれないと常に構えている緊張感がそこに加わっていることもあるが、一番心を折ったのは、屋上に入る扉に鍵がかかっていて入れなかったことだ。上まで登って入れません、となった時には、本当にその場にへたり込みそうになるほどショックが大きかった。

それでも、いくつかのビルの屋上には入ることができた。そこにはバラック小屋が立ち並んでいた。

世界各地で目撃してきたスラムの住宅と同じような作りだ。

写真を撮りながら住民たちへの接触をはかるべく、訪ね歩くことにした。しかし、住民たちは出てこない。警戒しているのか、なにか別のことを疑っているのかわからないが、在宅の気配があっても窓の隙間からこちらを確認しては無視されるといった感じで、話を聞くに聞けない状況が続いた。

ようやく住人と接点を持てたが、それは意外な相手だった。

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