2016.09.24
# ミステリー小説

東野圭吾が海外で大ブーム! 日本ミステリー、つぎつぎ世界へ

英訳出版の現在
松川 良宏

中村文則は欧米では日本の新進気鋭のミステリー作家・ノワール作家として知られている。

2012年にまず『掏摸(スリ)』が英訳され、続いて翌年には『悪と仮面のルール』が英訳されたが、この2作はどちらも米国『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でその年のミステリー・ベスト10の一作に選出されている。また『掏摸』は、米国ロサンゼルス・タイムズ文学賞のミステリー・スリラー部門にノミネートもされた。

そして2014年には、ノワール小説界に貢献した人物に贈られる米国の文学賞、デイヴィッド・グディス賞を受賞している。特定の作品に対してではなく人物に対する賞だが、当時中村文則作品の英訳は『掏摸』と『悪と仮面のルール』の2作品だけだったので、この2作が評価されての受賞ということになる。これにより中村文則は、英語圏のミステリー賞を受賞した最初の日本人作家となった。さらに2014年末には、米国のミステリー雑誌『Mystery Scene』の表紙を飾っている。

その後、中村文則作品の英訳は『去年の冬、きみと別れ』、『銃』、『王国』と続いており、今後さらに、『土の中の子供』、『教団X』の英訳出版も予定されている。最初に英訳された『掏摸』は、フランス語やドイツ語、イタリア語、スペイン語などにも訳されている。

なお『掏摸』が英訳されたのは、この作品が大江健三郎賞を受賞したからであった。この賞は賞金がない代わりに受賞作の英訳(または仏訳・独訳)を約束しており、これをきっかけに中村文則は世界に知られるようになったのである。

湊かなえは今のところ英訳は『告白』しかないが、これが米国『ロサンゼルス・タイムズ』紙で日本版『ゴーン・ガール』などと評されて話題を呼び、多方面から高く評価された。

2014年に刊行された『告白』の英訳版『Confessions』(スティーヴン・スナイダー訳)は、まず米国『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でその年のミステリー・ベスト10の1作に選出される(中村文則『掏摸』、『悪と仮面のルール』に続き、3年連続の日本作品の選出となった)。

そして翌2015年の2月には全米図書館協会アレックス賞を受賞。これはヤングアダルト世代に薦めたい一般書(小説に限らない)に授与される賞で、毎年10冊が受賞作として選ばれる。同年のほかの受賞作にはアンディ・ウィアーのSF小説『火星の人』やジョン・スコルジーのSFミステリー『ロックイン-統合捜査-』などがあった。

ミステリーの賞では、アメリカのミステリー雑誌『ストランド・マガジン』が実施するストランド・マガジン批評家賞の最優秀新人賞にノミネートされた(受賞はエリザベス・リトル『Dear Daughter』/未訳)。

さらには心理サスペンス、ホラー、ダークファンタジーなどを対象とするアメリカのシャーリイ・ジャクスン賞の長編部門にもノミネートされた(受賞はジェフ・ヴァンダミア『全滅領域』。なお2013年には、鈴木光司『エッジ』の英訳版がシャーリイ・ジャクスン賞長編部門を受賞している)。

『告白』は欧米ではまずイタリア語訳が2011年に刊行されており、英訳が2014年に出た後、2015年にはフランス語訳も刊行された。『告白』に続く英訳作品には『贖罪』が予定されている。

また賞ではないが、2015年に刊行された綾辻行人『十角館の殺人』の英訳版『The Decagon House Murders』(ウォン・ホーリン訳)は米国『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌の「ベストブックス2015」ミステリー・スリラー部門の1冊に選出されている(同部門は毎年10冊前後が選出されており、この年は『十角館の殺人』を含めちょうど10冊が選出された)。

近年は日本のミステリー小説の翻訳出版に関するトピックが急増しており、本稿は英米の賞に関連した話題を中心にせざるを得なかったが、それでもこれだけの分量になるとは『容疑者χの献身』英訳版の出版以前には考えられなかったことで、誠に喜ばしいことである。

今後も東野作品をはじめとする日本のミステリー小説が世界へと広がっていくことを楽しみにしたい。

「IN ☆POCKET」2016年9月号より

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