2016.09.24
# ミステリー小説

東野圭吾が海外で大ブーム! 日本ミステリー、つぎつぎ世界へ

英訳出版の現在
松川 良宏

エドガー賞では規定上、最優秀新人賞以外では翻訳作品もノミネートされうるが、実際にノミネートされることは少ない。最優秀長編賞を見てみると、ノミネートされた翻訳作品は60余年で9作品だけである。

【表3】エドガー賞最優秀長編賞にノミネートされた翻訳作品

そしてそのなかで受賞にまでいたったのは1971年のマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー『笑う警官』が唯一である。アメリカ・ミステリー界の最大の栄誉を翻訳作品が勝ち取るのはそう簡単なことではない。

『容疑者χの献身』も『OUT』も残念ながら受賞を逃したが、それぞれの年の受賞作・ノミネート作はほとんどが邦訳されているので、読み比べてみるのも面白いだろう。

『容疑者χの献身』がノミネートされた2012年の受賞作はモー・ヘイダー(英)『喪失』で、ほかのノミネート作はエース・アトキンズ(米)『帰郷』、アンネ・ホルト(ノルウェー)『ホテル1222』、フィリップ・カー(英)『Field Gray』(未訳)だった。

桐野夏生『OUT』がノミネートされた2004年の受賞作はイアン・ランキン(英)『甦る男』で、ほかのノミネート作はジャクリーン・ウィンスピア(英)『夜明けのメイジー』、ケン・ブルーウン(アイルランド)『酔いどれに悪人なし』。同年はほかにマイクル・コナリー(米)『暗く聖なる夜』も当初ノミネートされたが、当時アメリカ探偵作家クラブの会長職にあったことを理由にコナリーがノミネートを辞退したため、ノミネート作は4作品となった。

東野圭吾、桐野夏生がノミネートされた年はどちらもイギリスの作家が受賞しているので、イギリスの作家が受賞することも多いのかと錯覚してしまいそうだが、ここ30年(1987年〜2016年)で計算してみると、最優秀長編賞の受賞はアメリカの作家が80%、イギリスの作家が20%である。

なお、オーストラリア、カナダの作家が受賞したことはあるが、アイルランド、ニュージーランドの作家が受賞したことはない。

英米のミステリー賞の受賞・ノミネート

英米でミステリー賞にノミネートされた日本人作家にはほかに横山秀夫、中村文則、湊かなえがいる。

横山秀夫は今まさに、『64(ロクヨン)』の英訳版『Six Four』(ジョナサン・ロイド・デイヴィズ訳)がイギリスのダガー賞にノミネートされているところである(受賞作発表は10月11日)。

ダガー賞は英国推理作家協会(The Crime Writers' Association)が毎年授与している賞で、日本では英国推理作家協会賞(CWA賞)と呼ばれることも多い。アメリカのエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞/MWA賞)と並んで、英語圏のミステリー界における最大の栄誉となるのがこの賞である。

やはりいくつかの部門賞に分かれるが、長編賞が英語作品を対象とするゴールド・ダガー賞と、翻訳作品を対象とするインターナショナル・ダガー賞に分かれているのがエドガー賞との大きな違いだ。2005年までは英語作品も翻訳作品も同じカテゴリーで審査されていたが、2006年に翻訳長編を対象とするインターナショナル・ダガー賞が新設された。

『64』は今年5月、インターナショナル・ダガー賞の第一次候補(ロングリスト)8作に入り、7月には最終候補(ショートリスト)5作に残った。ほかに最終候補に残っている作品には、ピエール・ルメートル(フランス)『天国でまた会おう』、ザーシャ・アランゴ(ドイツ)『悪徳小説家』などがある。ダガー賞も60余年の歴史を持つ賞だが、日本人作家がノミネートされたのはこれが初めてである。

なお、インターナショナル・ダガー賞の過去の受賞作にはアンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム(スウェーデン)『三秒間の死角』やピエール・ルメートル『その女アレックス』などがある。

横山秀夫はほかに短編「動機」が英訳されているのみだが(米国『エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン』2008年5月号)、『64』の好評を受けて、今後ほかの長編の英訳出版も検討されるかもしれない。なお『64』はイギリスで今年3月に刊行されたが、アメリカでは来年2月に刊行予定である。フランスやイタリア、オランダでの翻訳出版も予定されている。

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