「世界と戦える、次なる選手を育てたい」―ある日本人格闘家の挑戦

その名はZENKO【後編】
田崎 健太 プロフィール

世界で戦える選手を育てたい

総合格闘技は、一歩間違えば命に関わる、あるいは後遺症の残る可能性のある競技である。そうしたリスクがありながら日本では報われない職業である。総合格闘技団体『パンクラス』のホームページには、酒井正和代表のこんなメッセージが書かれている。

〈WINボーナスの現状が防衛戦で満額100万円ワンマッチで満額40万円ですがその額をどどんどん増額し、パンクラスチャンピオンで生活していけるようにしたいですね〉

逆に言えば、パンクラスでチャンピオンになったしても、現状、格闘技だけでは生活できないということだ。選手はアルバイト、そして自ら試合のチケットを売って糊口を凌いでいる。

吉田はこうも言う。

「ぼくがもしアメリカに行っておらず、バイトをしながらリングに登っていたら、こんなに長く格闘技を続けることはなかったと思います」
 
8月1日、吉田は東京、中野新橋に格闘技ジム『RIGHT THING ACADEMY』(RTA)を開いた。「Right thing」とは「正しいことをやる」という意味で、格闘技のリングの中でセコンドが選手に掛ける言葉だ。吉田の名前「善行」の英訳でもある。
 
まずはこのRTAを中野新橋という土地に密着したジムにしたいと言う。

未来の「戦士」を育てる吉田【筆者撮影】

「アメリカでは普通のおじいちゃん、おばあちゃん、子どもも格闘技ジムに来て運動しているんですね。格闘技が根付いている。色んな年代の方に楽しんでもらうというのがぼくの根本にある。そういう雰囲気のジムを作りたいというのがありました」
 
その上で、彼はアメリカ――UFCを見据えている。ジムの内部には、吉田が出場した大会のポスターが飾られている。やはり目につくのはUFCのものだ。
 
いずれここからUFCを目指す選手が出て来れば、と吉田は考えている。

最後にどのような人間が格闘技に向いているのかと訊ねると、少し考えた後、こう答えた。

「センス、というのはあります。教えてみてすぐに出来る人もいるし、なかなか出来ない人もいる。でも、格闘技って、それだけでは勝てないんです。練習で駄目でも試合で強い選手もいる。気持ちの部分が大きい。格闘技って、痛いし、苦しいんです。それを強い気持ちで向かっていける選手が一番強い」

今年5月、吉田は42歳になった。自らリングに上がり、地元に密着し、世界に通じる選手を育てる――。吉田善行の新たな挑戦である。