日本映画に革命を起こした『犬神家の一族』はここがスゴかった

湖から飛び出した足、不気味なマスク…
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中川 脚本に関しては、随所でユーモアが光っていました。警察署長役の加藤武さんが、何回も「よし、わかった!」と早合点して手を叩くシーンは、何度見ても思わずくすりとしてしまいます。

角川 僕もいろいろとアイデアを出しました。たとえば、最後に金田一が弁護士とおカネのやりとりをする場面。米国の探偵映画には必ず探偵におカネを渡して、領収書を受け取るシーンがあって、これを日本映画でやりたかったんです。

ほかにも、宿屋の女中役の坂口良子さんが金田一に食事を用意し、「全部私が作ったの。何が美味しかった?」と訊くと、金田一が何も考えずに「生卵」って答えるシーン。このシーンも私のアイデアで、原作にはありません。おどろおどろしい作品には気が抜けるシーンが必要なんです。

中川 この作品は、先ほどのポスターも含め、宣伝も印象的でした。封切り日に向け、集中的にテレビCMが流されましたが、その効果は絶大だったんではないでしょうか。

角川 映画宣伝でテレビスポットを打つのも初めての試みで、効果は大きかったと思います。ただ、「テレビCMに膨大なカネを使った」という通説は間違い。実際に使ったのはCMの製作費50万円と放映料500万円の計550万円だけです。それが、映画のヒットを受けて「膨大なテレビ宣伝費」という神話になっちゃったんですね。

中川 映画がヒットしたことで、横溝さんの文庫本も売れたと思いますが、文庫本を読んだ人と映画を観た人の数ではどちらが多かったのでしょうか。

角川 映画のほうでしょう。その時点で横溝さんの作品は計40点発行し、文庫含めて累計発行部数は1000万部超でしたが、映画は『犬神家の一族』だけで約350万人動員しましたからね。配給収入も17億5000万円までいきました。

もうひとつ私がこだわったのは主題曲です。主題曲を作った大野雄二は、テレビでは売れっ子でしたが、映画音楽を作ったことがなかった。その大野に500万円払って主題曲を書いてもらいました。当時、日本映画の音楽予算は50万円が相場。破格の金額でした。

浅田 たしかに印象的な曲でした。あの物悲しい旋律はいまでも耳に残っています。

角川 ただ、失敗だったのは、インストゥルメンタルだったこと。歌詞があればもっと売れていたと思う。その反省が、第二作の『人間の証明』で、ジョー山中が歌った主題歌の大ヒットにつながりました。

中川 いずれにせよ、『犬神家』が、日本でメディアミックスに成功した初めての作品だったことは間違いありません。

『犬神家の一族』/'76年公開の横溝正史原作、市川崑監督作品。'70~'80年代にブームになった「角川映画」の第一作。多くのスター俳優、女優を起用し、第一回報知映画賞作品賞を受賞するなど評価は高く、興行的にも成功した。'06年には市川監督、石坂浩二主演でリメイクが行われた
かどかわ・はるき/'42年、富山生まれ。実業家、映画プロデューサー。「角川映画」の生みの親。近著に、映画制作の経験を語った『いつかギラギラする日』
あさだ・えいいち/'49年、北海道生まれ。特撮監督。『犬神家の一族』、『日本沈没』などで助監督、『ゴジラ FINAL WARS』で特殊技術責任者を務める
なかがわ・ゆうすけ/'60年、東京生まれ。評論家。『松田聖子と中森明菜』『歌舞伎 家と血と藝』『角川映画 1976-1986 日本を変えた10年』をはじめ、著書多数

「週刊現代」2016年9月17日号より