トヨタが知っている「利益の生み方」一番お金をかけているのはここ

MBAもビジネススクールも時代遅れ
酒井 崇男 プロフィール

価値は「設計」から生まれている

実はトヨタであれば、すでにだいぶ以前から95%以上の利益は、製品開発で作られている。トヨタと言えば生産プロセス、つまり量産工場の話が有名だが、現実には、製造プロセスの利益に対する貢献度は今日ではすでに5%以下しかない。

つまり利益は本来の意味での「設計」で作られている。だからすでに市場が拡大する見込みのない日本に工場を新設するメリットはないし、コモディティ化したプロセスは人件費の安い海外でやればいいのである。

製品開発プロセスと量産プロセスの利益貢献度はトヨタでは1970年頃逆転したと言われている。つまりトヨタではMade in Japan の時代は1970年に終了した、あるいは終わりが始まったということである。終了した時期は当然他社より早い。

製品が売れるか、売れないのか(=消費者が買うのか、買わないのか)、会社として利益を十分に出せるのか出せないのかは、量産工場ではなくて、(広義の)設計で作られている。価値と利益のほぼすべてが生まれるのは、製品開発プロセスなのである。

つまり経済学で言う「付加価値」のほとんどは、製品開発、広義の設計で生み出すものとなっている。

しかし、この「設計が利益を生む」「製品開発・広義の設計が富の源泉」ということが多くの人にはなかなか理解できない。とくに経済学、経営学、会計学分野の専門家達が残念ながら全く理解できない場合がある。なぜだろうか? 

実のところ、製品開発プロセスは、それらどの専門分野が扱ってきた領域からも外側の分野、いってみれば「真空地帯」のようなものだったからである。ほとんどの価値と利益を生み出す、すなわち、今日経済的な価値のほとんどを生み出す中心のプロセスであるにもかかわらず、このプロセスは、経営学でも経済学でも会計学でも最初から対象外としてきた。

古い学問が作られた19世紀の頃には、これは、ほとんど存在していなかった、あるいは無視しても問題ないレベルのビジネスプロセスだったからだ。だから仕方ないのである。

おかしな話だが、結局、今日の先進国の「富の源泉」つまり本当の意味での「経済的な付加価値」の源泉は、古典的な学問である経済学・経営学・会計学の範囲外、専門外となっているのである。

イノベーションを理解しているか

MBAを雇ったり大学教授のアドバイスを聞いていると、会社がたちまち「ソニー化」してしまうことからも分かるだろう。一昔前の社会やビジネスで有効だった考え方は今ではもちろん、時代遅れである。

では単に工学的な技術の問題なのか、と言われるとそうではない。単なる要素技術・固有技術に詳しい専門家・スペシャリストからすると、やはり今日の「富の源泉」は専門外の分野なのである。

要素技術・固有技術は、(正しい意味での)設計者が目的を達成するため、価値を生み、利益を生み出すための手段、という位置づけである。製品としての価値を上げたり、原価を下げたりするために、技術があるわけだ。

要素技術・固有技術の方はあくまでも、設計者が意図する価値を定められた原価で生み出すための、手段であって目的ではない。われわれは製品やサービスの価値を買っているわけであり、その実現手段である技術そのものを買っているわけではないことは言うまでもあるまい。しかしエンジニアは、ここが分からなくなる人が多い。

また、「技術」というとどれもこれも一緒くたに捉えている経済学者も多いのでさらに混乱に拍車をかけている。経済的な付加価値を持つ、われわれが現金と交換する「価値」を生み出すための実現手段として、全体のビジネスプロセスの中でどの技術がどの手段として使われるか、あるいは開発されるかが問題なのだ。

研究所に累計5兆円程度投資をしてきたが、市場にろくな成果物がない日本最大の通信会社がある。そのムダはすべて我々の支払う通信料に上乗せされてきた。さらにいえば同分野での競争力を日本勢は全く得ることができず年間100兆円以上の規模の機会損失を生み出している。

なぜここまで失敗したのか? 彼らは「技術」の目的が価値を生み出すための手段に過ぎないことが理解できていなかったからである。

つまり上に述べたような本来の設計や、正しい意味でのイノベーションについて知らないからだ。イノベーションとは最初から経済的なものであり、技術開発・研究開発はそのための手段に過ぎない。こうした基本的なところが理解できていない。そのために損失が野放図に拡大されたのは当たり前である。我々の税金や将来からの借金から拠出した政府の補助金はもちろん全部ムダになった。

巨額の機会損失を生み出し、国益を失った責任は、歴代の責任者・管理者一人一人に遡ってまで問うべきであるのはさすがに言うまでもあるまい。

古くさい米国式経営には「答え」はない

今日の企業活動でもっとも重要なプロセスが、経営学で扱えていない、ということはどういうことか。それは、一昔前、日本でも流行した、MBAやMOT(Management of Technology 技術経営、技術マネジメント)のような米国東海岸や欧州で発達した伝統的かつ旧式の経営学の枠組みが役に立たない、ということである。

マッキンゼーのようなコンサルティング会社も現在では、無力かつ時代遅れとなった。もちろん個々には優秀な人がいる。しかし米国で成功している企業とそうした古い世界の人達の間には関係があるのだろうか? 

現在米国でもっとも成功し、世界でもっとも成功している企業はアップルだ。彼らの成長の原理は、MBAでもMOTでもなければ、時代遅れとなったコンサルティング会社の指導によるものでもない。どちらかと言えば、そうした古い伝統的な米国の仕組みとはもっとも縁遠い会社だ。

もしビジネススクールやコンサルティング会社がアップルの成功の本当の秘密を知っているのであれば、次々と米国内でノウハウが横展開されているはずだ。つまり、米国から続々とアップルに続く会社がでてきてもまったく不思議なことではないということである。ところが、一向にその気配すらないことからも何が起きているか分かると思う。

実のところ、米国では、もっとも非米国的な企業が、もっとも米国で成功している、という皮肉な事態が起きている。

アップルの創業者はいわば日本狂いだった人だ。彼のヒーローは、ソニー創業者の盛田昭夫である。宗教もサムライの宗教だった禅宗の曹洞宗に改宗してしまった。来日した際には、ニンジャの手裏剣を買って、通関で止められ、激高したことがニュースとなっていた。その少々風変わりな人物の影響で、米国西海岸の企業では、禅宗は、マインドフルネスなどと呼ばれて企業の中で導入されているそうである。

日本の大手書店のジュンク堂では、「マインドフルネス」関連本は、ビジネス書コーナーに平積みしてある。しかし同じ内容で、タイトルが、「曹洞宗~禅の世界~」であればどうか? ビジネス書ではなく、宗教のコーナーに置かれてしまうであろう。

デザイン・シンキングと呼ばれるものが一時期日本でも話題になった。デザイン・コンサルティング会社IDEO社の人達が考え方を提唱したり、スタンフォード大学には、デザイン・シンキングを教えるコースもある。デザイン・シンキングとは一体全体何のことを言っているのか? 日本で、デザイン・シンキングを翻訳し、展開しようとしていた社会学系の大学人に話を聞くと、実は彼自身も、デザイン・シンキングがなんのことを言っているのか正直なところ未だによく分からないのだそうである。

デザイン・シンキング、つまり設計思考と言って、彼らが言わんとしていることは、さらに正確に言えば、単に設計分野の設計品質をどう確保するかという話である。言ってしまえばこのあたりの仕組みをさらに厳密かつ正確にシステマチックにやってきた人達が日本にはいる。

IDEOやスタンフォード大学の説明では抽象的で要を得ないのが実際だ。彼らの出しているレベルの情報では具体的に何をどうしていくのか分からないであろう。中でも致命的なことは、設計における経済性検討の説明がほとんどなされていないことである。

人工物あるいは、複雑な被設計物を、システマチックに生み出すこと。価値を設計し、利益を設計し、価値を上げたり、原価を下げたりすること。すなわち、経済的な価値を生む目的で技術開発を行うということ。これらを行ってきたのは、時代遅れの米国企業ではなく、実は一部の日本企業だったのである。

そうしたことに昔から体系的に取り組んできた日本企業は、もちろん、Made in Japan で終わってはいない。Made in Japan のノウハウは当たり前とした上で、新市場向けの新製品・新技術の開発を目的的に行ってきた人達がいる。

つまり、今、圧倒的な勝ちと圧倒的な負けの差を生み出しているものは、広義の設計や製品開発を、組織的に仕組みとして行ってきた会社であり、個人である。あるいは組織的な仕組みとして備えている会社であり個人なのだ。

欧米でMBAやMOTなどの教育で作ってきた人材は今日のビジネスにおいて主役ではなく単なるサポートスタッフである。この時代、今さらマッキンゼーやボストン・コンサルティングに相談してみたところで、彼らが答えを教えてくれるわけではない。彼らは最初から、そうした知識も能力もさっぱり持っていない。

彼らの能力を超えたところで、今の企業の「競争力」は作られているから当たり前である。ビジネスの専門家は、現代のビジネスにおいてもっとも肝心なことに関しては対象外である。

新しいビジネスに関しては、実は彼らは最初から何も知らなかったというわけである。彼らを活用すべき業界は、石油ビジネスや小麦やバナナのような一昔前の古いタイプの財を扱うビジネスなのだ。

次回は日本がこのまま凋落しないために、どうすればよいのかを解説する――。
続編はこちらから。
 

工場で勝負する時代はとっくの昔に終わっている。今は「製品開発」の仕組みが競争力の源泉だ。
酒井 崇男(さかい・たかお)
グローバル・ピープル・ソリューションズ株式会社 代表取締役。東京大学大学院工学系研究科修了。トヨタ流製品開発・原価企画・人材管理に詳しい。人事・組織戦略コンサルタント。米国・欧州のリーン(トヨタ流)製品開発会議(LPPDE)で日本人として初めて基調講演を行う。またスウェーデン・チャルマーズ大学製品開発学科でも講演を行う。新製品開発組織のタレント管理を世界で初めて理論的に体系化した。著著に『「タレント」の時代』『トヨタの強さの秘密』。『トヨタの強さの秘密』は東洋経済ベストセラーで一位となる。