もはや外国人の「ブラック労働」なしでは成り立たない新聞配達の過酷な現場

「奨学金留学制度」の功罪
出井 康博 プロフィール

経営悪化の煽りを受ける外国人労働者

この数年で、新聞販売所の経営は軒並み悪化している。定期購読者と広告の両方が減っているからだ。アン君が働く販売所では、毎日約1500部が売れ残る。朝日から購入する朝刊の実に3割に達する数である。こうして売れ残る新聞のことを、関係者は「残紙」と呼ぶ。

なぜ、売れもしない新聞を販売所は新聞社から購入するのか。そこには販売所と新聞社の力関係が影響している。売れ残るからといって、販売所は簡単には新聞社に部数カットを言い出せない仕組みなのだ。ちなみに、朝日に限らず新聞社の「公称部数」は、こうした残紙も含んだ数字である。

購読者が減ったため、アン君の販売所では最近になって配達の区域分けを1つ減らした。そのぶん一人が担当する区域は広がり、配達部数と労働時間が増えた。

なにもアン君の働く販売所に限った話ではない。経営状態が悪化しているため、どこの販売所でも人件費は安く抑えたい。たとえ留学生が日本人より安価な労働力であっても、無制限に数は増やせないのだ。

実は、「週28時間以内」という労働時間の制限は、ベトナム人を雇う販売所にとっては都合がよいシステムでもある。実際にはそれ以上の仕事をしていても、法律を逆手に取って残業代を支払わないですむ。週28時間を超える分の残業代を出せば、販売所が公に法律違反を認めたことになるからだ。こうして日本人には残業代が支払われても、ベトナム人は「未払い残業」に甘んじることになる。

結局、移民を受け入れられる態勢ではない?

今、日本でも移民の受け入れをめぐっての議論が始まっている。だが、私から見れば、受け入れ賛成派、そして反対派にも大きな勘違いがある。それは、「国を開けば、いくらでも外国人がやってくる」という前提で議論を進めていることだ。

日本が「経済大国」と呼ばれ、世界から羨望の眼差しを注がれた時代は今や昔なのである。にもかかわらず日本人は、昔ながらの「上から目線」が抜けない。

日本で働く外国人労働者の質は、年を追うごとに劣化している。そのことは長年、現場を見てきた身から断言できる。

本書で取り上げてきた実習生、介護士の問題もそうだ。日系ブラジル人の場合は、年齢が若く、可能性を秘めた人から母国へ帰国している。留学生に至っては、出稼ぎ目的の“偽装留学生”の急増は目立つが、本来受け入れるべき「留学生」は決して増えていない。すべては、日本という国の魅力が根本のところで低下しているからなのだ。そんななかで、「移民」受け入れの議論が始まった。

移民の受け入れを主張する人たちに尋ねたい。「あなたたちは、いったいどこの国から、どれだけの数の人たちを、どんな条件で受け入れるつもりなのか」と。