もはや外国人の「ブラック労働」なしでは成り立たない新聞配達の過酷な現場

「奨学金留学制度」の功罪
出井 康博 プロフィール

完全にアウト

私が仕事に密着したアン君の朝刊配達は、午前6時に終わった。午前2時に出勤し、広告の折り込みなどをした後、配達に3時間少々かかった。朝の仕事時間は約4時間である。その後、夕刊の仕事を午後2時から始めた。配達を終えたのが午後5時だ。この日の労働時間は合わせて7時間だった。そしてアン君は週6日働いている。

日曜日は夕刊がない。しかし、休みが日曜と重なるときもある。また、夕刊配達を終えた後、翌日の朝刊分の広告の折り込みなどで居残るケースも少なくない。アン君によれば、仕事時間は平均して「週40時間」程度になるという。

新聞奨学生も「留学ビザ」で来日している。新聞配達はアルバイトという扱いだ。そのため仕事は「週28時間以内」しか許されない。アン君の場合、週12時間は違法に働いていることになる。

アン君だけが特別なのか。それを確かめようと、私は50人以上のベトナム人に直接会って話を聞いた。OBを含め皆、首都圏の朝日新聞販売所で奨学生として働いた経験者である。

労働条件は配属された販売所によって大きく違った。配達する朝刊の数も300部から550部程度まで開きがあった。新聞配達だけでなく、チラシのポスティングや古紙回収、朝日奨学会が外国人奨学生にはやらせないよう指導している集金業務までやっている者もいた。

また、新聞の配り忘れである「不着」1軒につき、販売所から数百円の罰金を取られていたりもする。経営者の方針次第で、仕事の中身から待遇までまったく違ってくるのである。

ただし、1つだけ共通していたことがある。それは私が取材したベトナム人の奨学生経験者全員が「週28時間」を超える仕事をしていた、ということだ。なかには、週50時間近くも働いている奨学生もいる。

もちろん、朝日新聞の販売所で働くベトナム人奨学生のすべてが法律に違反していると言うつもりはない。しかし少なくとも、アン君が特別なケースでないことは確かである。

朝日奨学会は販売所に文書を配布し、「週28時間」の労働時間を守るよう求めている。だが、実態はまったく伴っていない。アン君が働く販売所の経営者も、彼が週28時間以上の仕事をしていることを認めた。

「確かに、法律に定められた時間以上の仕事をベトナム人奨学生はやっています。ほかの店に聞いてもらっても同じだと思いますよ。そもそも(奨学会が販売所に求める)一日5時間(週5日、夕刊のない日曜は3時間で計28時間)では販売所の仕事は終わりません。配達の現場を多少でも知る人なら、誰でもわかっているはずですけどね」

ほかにも数人の販売所経営者に話を聞いたが、答える内容はほぼ同じだった。販売所の仕事は、とても「週28時間以内」で終わるようなものではないのだ。留学生に法律を守らせようとすれば、彼らの仕事だけを減らし、特別扱いする必要が生じる。だが、そんな余裕は今の販売所にはない。