もはや外国人の「ブラック労働」なしでは成り立たない新聞配達の過酷な現場

「奨学金留学制度」の功罪
出井 康博 プロフィール

販売所でも、ベトナム人は次第に評価されていった。働きぶりは真面目で、しかも学業でも優秀な成績を収める。奨学会がベトナムの同じ日本語学校に絞って受け入れていたこともよかった。仕事や勉強、生活面に至るまで先輩が後輩に指導する態勢ができたことで、販売所から逃げ出して不法就労に走るような者もいなかった。

こうして朝日新聞を通じ、ベトナム人が日本に留学する道が開かれた。するとベトナムの若者の間で、「日本に行けば、働きながら勉強できる」という噂が広まっていく。

もちろん、朝日の招聘奨学生の場合は、あくまで「仕事」よりも「勉強」がメインである。しかし、そのほかの留学希望者は必ずしもそうではない。時が経つうち「仕事」と「勉強」の比重がすっかり逆転し、「日本に留学すれば働ける」という話に変わっていく。

一方、日本では人手不足が急速に進んだ。政府も2008年に始めた「留学生30万人計画」の実現に向け、途上国出身者であっても留学生を喜んで受け入れた。そんな日本の状況に目をつけ、ベトナムでは留学を斡旋するブローカービジネスが広まった。そして「日本留学ブーム」が巻き起こる。つまり、現在のブームに火をつけたのは「朝日新聞」だったのである。

留学生を送り込むブローカー

朝日奨学会によるベトナム人奨学生の受け入れが大成功すると、各紙の新聞販売所で「留学生」が注目を集めるようになった。過去数年間で朝日に限らず販売所の人手不足が深刻化したからだ。

出稼ぎ目的で来日している“偽装留学生”にとっても、新聞販売所の仕事は悪くない。なんといっても、日本語のできない留学生が就ける仕事は限られる。多くは徹夜の重労働で、時給は最低賃金レベルである。しかも「週28時間以内」という留学生アルバイトの制限をかいくぐるためには、2つ以上の仕事をかけ持ちする必要がある。その点、1つの仕事で月20万円近くを稼げる新聞配達は、留学生には魅力的なのだ。

留学生を販売所に斡旋する業者も生まれた。そうしたブローカーはベトナム人に限らず、さまざまな国から来た“偽装留学生”たちを販売所に斡旋する。最近では、新聞販売所で働く留学生の国籍もかなり多様になった。ベトナムに加え、ネパールやインドネシア、ミャンマーなどの出身者もよく見かける。

現地の日本語学校と提携し、組織的に販売所に留学生を斡旋するような業者もある。ビザ取得のため日本の日本語学校に留学させ、新聞配達の仕事に使うのだ。朝日奨学会がベトナムで始めたビジネスモデルを真似てのことである。

だが、新聞配達の仕事は決して楽ではない。朝日奨学会によるベトナム人の受け入れがうまくいったのは、前述したように関係者らの全面的なバックアップがあったからなのだ。

ブローカーが斡旋する他の留学生たちには、そうした支援は望めない。日本語にも不自由な外国人が、いきなり販売所に放り込まれるのだ。販売所で働く日本人とコミュニケーションは取れず、仕事もなかなか覚えられない。原付免許もないため、配達は自転車でやることになる。仕事の大変さは原付の比ではない。新聞配達に自転車で密着した私にはよくわかる。

当然、配達時間も長くなる。嫌になって仕事を辞め、さっさとほかのアルバイトへと移っていく留学生も少なくない。すると販売所は、また新たに留学生を探す必要に迫られる。そうした悪循環も、人手不足のなかで生まれている。

もちろん、新聞を留学生が配ること、それ自体に問題はない。だが、違法就労が横行しているとなれば話は違ってくる。