2016.08.15

故郷への帰還を待ち続ける日本兵の遺骨を、私たちはどうすべきか

いまも野ざらし雨ざらし
大塚 智彦 プロフィール
アブラボンディ島

インスバビ島の長老によると、遺骨が散乱していたムサキ島では戦争中に戦闘はなく、日本兵も駐留していなかったという。こうした証言などから周囲の島やスピオリ島で戦死、病死した日本兵の遺体を集団埋葬したか集積した場所(言葉は悪いが遺体置き場)である可能性が高いとみられている。

ムサキ島内の別の場所でも複数の人骨が発見され、日本海軍の食器のようなものも発見されている。ムサキ島に近いアブラボンディ島では、住民が案内してくれた民家わきの土砂に埋まった井戸から人骨が露出していた。

住民代表によれば島内で見つけた骨を集めて埋めたというが、日本兵であるとの確証があるわけではない。

周辺の島ではこうした人骨がよく見つかる。敗走につぐ敗走でビアク島からスピオリ島そしてさらに沖合の小島に逃れてきて死亡した日本兵の可能性も捨てきれないだけに今後の調査と鑑定が待たれている。

「遺骨は文化財」の壁

日本兵の可能性が極めて高い遺骨だが、発見すればすぐに「帰国」できるというわけではない。特にインドネシアでは国内法で「地中に50年以上あるものは文化財」という概念があり、無断で遺骨を持ち出せば「文化財の不法持ち出し」という法律違反に問われかねない現実がある。

これまで厚生労働省による遺骨送還事業で日本兵とみられる遺骨がインドネシアから帰国を果たしているが、これは収集、鑑定、焼骨というプロセスと、インドネシア政府教育文化省との粘り強い交渉、現地地方自治体や遺骨発見場所の土地所有者、地元実力者などの協力を得て、最終的に実現しているのだ。

インドネシアでの遺骨収集事業には実は盲点がある。

それは、日本軍と共に戦場に送られた多くのインドネシア人も戦死しており、遺骨を焼骨する前に実施される鑑定では、モンゴロイド(日本兵やインドネシア人)とコーカソイド(米兵)の区別はできても、日本兵とインドネシア人の鑑別はできない。というより、鑑別を実施していないのだ。

つまり、どういうことかと言えば、日本兵である可能性の高い遺骨として日本軍と行動を共にしていたインドネシア人の遺骨も混在する中で、「米兵ではない」との鑑定結果により荼毘に付されて日本へ送還、千鳥ヶ淵の戦没者墓苑に納骨されているインドネシア人が多数いる、ということである。

霊魂の存在を信じるとすれば、千鳥ヶ淵に納骨されたインドネシア人の霊魂は「母国に帰してくれ」と切望していることになるだろう。

現在は人骨の鑑定技術が格段に向上し、歯があればそのDNA鑑定などでその人が育った地域が限定できる可能性があり、少なくともインドネシア人を千鳥ヶ淵に納骨するという間違いは回避できるというが、厚労省はそこまで積極的ではない。

現地での日本兵の可能性のある遺骨に関する情報収集は、戦争当時を知る現地住民の高齢化、さらに日本軍部隊の生存者の高齢化や死亡などにより、近年は困難な状況に陥っている。

厚労省は現地事情に詳しく、遺骨収集の実績があるとされる民間団体に遺骨収集事業を一般入札で委託しているが、委託された団体が「実績」を残すために問題を起こしたケースも過去にはある。

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