それでも日本人はまた戦艦「大和」をつくるだろう〜この国が抱える根本的な宿痾

誰もグランドデザインを描けない…
三田紀房, 戸高一成
©三田紀房

「大和」の戦果はゼロ

三田 戸高さんの本『聞き書き日本海軍史』(PHP研究所)で、先ほどの戸高さんの上司だった関野氏が、戦後米海軍主催のパーティーに呼ばれ、その席上で「いかに米海軍が太平洋戦争で勇敢に戦ったか自分は身をもって良く知っている」と話し、「だから我々は、米海軍を信頼しているんだ」と語るシーンがありますね。

すると、米海軍の提督も「日本海軍は、どんなに絶望的状況下でも絶対に任務を放棄しない事を身を持って知っている。だからこそ安心して同盟を結べるんだ」と返した。そんな、お互いに命を賭して戦った者だけが知る信頼関係が、海上自衛隊と米海軍にはある。

相手をリスペクトする、戦ったからこそ分かる間柄。これが戦後、あれほど激しく戦った仇同士のはずの海上自衛隊と米海軍が、今も強固な同盟関係を結んでいるスタートとなった。これが凄く大きい。戦いに臨む男と男のメンタル、その激戦が新たな友情・信頼を生んだんだと思います。でも残念ながら、戦艦「大和」は実際ほとんど活躍しなかったとか……。

 


戸高 「大和」の戦果は"ゼロ"ですよ。航空機を数機落としたくらい。戦艦「大和」は、あの山本五十六でも使いこなせなかった。

というのは日本の海軍って、決戦一回で最終決着を付ける戦略だった。明治以来、太平洋戦争に至るまで、日本海軍が想い描いていたのは「日本の目の前にまで遠征してきた敵艦隊と決戦する」っていう日露戦争の日本海海戦を、すっとイメージしてるんですよ。

私に言わせれば日本海軍っていうのは徹底した専守防衛海軍なんです。だから外に打って出る太平洋戦争のような戦い方は、実は誰も考えていなかったんです。

アルキメデスの大戦 第3巻
「大和」建造計画炎上中!?

三田 日本は昔からガラパゴス化(日本独自の発展型が、世界標準と大きな差異が生まれている状態)してましたからね。

まず日本海軍は艦隊随伴タンカーをほとんど持っていない。燃料補給を考えてない。小笠原や、せいぜいサイパンの手前で決戦するっていう計画ですから。だから赤道の向こうのトラック諸島にまで出て行った時「どうしたらいいんだ」って悩んじゃう。

じゃあ、もし日本近海で決戦していたら「大和」は活躍できたと思いますか?

戸高 「大和」建造中に艤装員副長を務めた砲術の専門家で、海軍砲術学校の教頭も務めた黛治夫海軍大佐に言わせれば「俺に任せれば絶対、勝ったんだ」と。もう死ぬまで胸を張って言ってましたよ。「米軍がやって来るまでつまらない作戦で兵力を消耗せずに待って決戦を挑めば、日本は負けないんだ」って。

たしかに「大和」の攻撃力、防御力は桁が違います。「大和」の主砲弾が命中したら米国の戦艦は一発轟沈したはずですから。だから理論的には間違ってない。「でも、あなた戦争中も全然、弾、当たってないでしょ」って海軍反省会(戸高氏が編纂した旧海軍将官らの反省座談会の証言録)で皆から突っ込まれてましたけど(笑)。

三田 実際、文献などを読んでいると日本海軍の「大和」にかける期待は大きかったことがわかります。その分、落胆も。

戸高 まぁ、でも戦争ってのは始まったらアウトですから、始めないことが大事なんです。連合艦隊の参謀長を務めた福留繁海軍中将も戦後、こう言っています。「日本は、なんで太平洋戦争に負けたのか? それは戦争を始めたからだ」と。

三田 でも、やっちゃう。

戸高 そう。戦争の一番恐いところは、みんなが嫌だ、あってはならないって思っているのに起こってしまう。みんなが嫌なのに世界中から無くならない。