それでも日本人はまた戦艦「大和」をつくるだろう〜この国が抱える根本的な宿痾

誰もグランドデザインを描けない…
三田紀房, 戸高一成

”努力と根性”の非合理が失敗を生む

三田 どうも日本には、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の"戦国の三傑"以来、グランドデザインが描ける指導者が、なかなか現れにくいように思えます。これは江戸時代の影響が強いんじゃないかなぁ。

信長、秀吉、家康には"天下統一"って最終目標があった。でも、いざ天下統一がなされると、それが失われてしまった。それを超える目標が唱えられると、幕府転覆を狙う謀反人となってしまう。"大きいことを考えてはいけない"ってメンタリティーで、264年間も押さえ込まれてしまう。

これが爆発的に開放されたのが明治維新なんだけど、結局、グランドデザインを描くことに失敗して、太平洋戦争の敗戦を迎えてしまう。それを仕切り直して、もう一度やり直してるのが現在なんだけど、未だ誰もグランドデザインを描けないでいる。寂しい限りですね。他にも日本は、個人の能力に頼りすぎるところも問題ですよね。

三田紀房(みた・のりふさ)1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「モーニング」「Dモーニング」にて〝投資〟をテーマにした『インベスターZ』を、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。

戸高 それは大きいですよね。末端にいくほど、個人の負担が大きくなる。

三田 ある石油プラント会社の重役の方と対談したことがあるんですが、日本の会社では、社員5人に持てるだけの手荷物を持たせて「頑張ってこいよ!」って成田から送り出す。現地の中東でプレハブ小屋を一棟建てて、寝袋、カップ麺で「よし、皆、頑張ろうな!」ってなる。

すると隣でも米国の石油会社が開発を始める。米国の会社は鉄骨コンクリートで支社を建て始め、住宅やプール、果ては18ホールのゴルフ場まで建設し、それらが完成してから、社員が家族と共に赴任してくる。

日本は依然としてプレハブ小屋とカップ麺で「あいつらに負けないように頑張ろう!」のままで、東京の本社も電話で「頑張れ!頑張れ!」って応援するだけ(笑)。

戸高 もう太平洋戦争のまんまの構図ですね。個人で「何とか乗り切ってくれ」っていう。もうモチベーションが違いますよね。会社が全力でバックアップして、家族の支えもあれば100%、120%の力が出せるわけですよ。

太平洋戦争の激戦地ガダルカナル島のヘンダーソン飛行場争奪戦が全く同じです。まず作業する人間の生活環境を整えてから目標物の建築に入る。そうして然るべきなのに、日本は掘っ立て小屋で寝起きし、風土病に悩まされながらスコップとツルハシ、モッコでの重労働で、さらに食うや食わずで補給もない。

 

一方、米軍はブルドーザーなどの重機とトラック、大量の物資に支えられ、一定の期間前線で戦えばオーストラリアでの休暇まで与えられる。

戸高一成(とだか・かずしげ)1948年、宮城県生まれ。多摩美術大学卒業。財団法人史料調査会理事、厚労省所管「昭和館」図書情報部長を歴任、平成17年より呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)館長。著書に「戦艦大和復元プロジェクト」「戦艦大和に捧ぐ」「聞き書き・日本海軍史」「「証言録」海軍反省会」「海戦からみた太平洋戦争」「海戦からみた日清戦争」「海戦からみた日露戦争」など。

三田 ベスト・パフォーマンスを発揮するためには生活環境の整備は必須なのに、日本は「個人の努力と根性で困難を克服してくれ」と非合理的なことをいう。これが多くの局面で失敗を生む原因になっている。

戸高 これでは絶対に続きませんよ。誰にでもできる作業方法でないと任務達成は不可能です。

日本海軍の場合、海軍大学校を出て、戦術の研究をした人が出世する。兵隊の生活環境など誰も顧みない。そんな現場を知らない人達が「そら行け!」って作戦を立案する。

一方、米軍の将官は海軍予備員制度で、さまざまな分野から人材が集まってくる。大学教授や企業の重役、建築家など、もう層の厚さが全然違います。これが米軍の強さですね。だから兵の闘志も高い。日本兵の勇猛果敢さは誰もが知るところですが、米軍も負けてはいない。"大和魂"と"ヤンキー・スピリット"の激突ですよ。

私のかつての上司が第三次ソロモン海戦で戦った戦艦「比叡」の11戦隊の通信参謀だったんですが、米駆逐艦の勇戦っぷりを大いに語ってくれました。「米駆逐艦が、あまりに肉薄するので、比叡の艦橋トップから真下を覗きこまなきゃ姿が見えないくらい。もうぶつかる、って所まで突っ込んでくる。双方とも近すぎて大砲が撃てず、機銃を撃ち合いながらすれ違う。日本の駆逐艦でも、こんなに突撃した船はいない」って、さんざん褒めてましたよ。