それでも日本人はまた戦艦「大和」をつくるだろう〜この国が抱える根本的な宿痾

誰もグランドデザインを描けない…
三田紀房, 戸高一成
左:「大和ミュージアム」館長の戸高一成氏、右:『アルキメデスの大戦』著者の三田紀房氏

戦艦「大和」は国の公共事業と同じ

戸高 エンジニアってのは、自分の能力を全て発揮して素晴らしい物を造りたいという気持ちが根底にありますからね。

劇中の登場人物で、平山造船中将のモデルと思われる平賀譲造船中将も、戦艦の設計主任になる道を一心不乱に追い求めた人なんですよね。そして、それが叶うと思った瞬間、ワシントン海軍軍縮条約で戦艦建造が禁止されて挫折してしまう。

エンジニアとして、あんな気の毒な人はいないんですよ。設計主任になって「さあ、やるぞ!」というところで「あ、それ全部いらない」って言われちゃう。それまで積み上げてきたもの全てチャラにされちゃう。そんなドラマチックな方なんです、平賀さんは。

 


三田 それもあって作中では櫂の最大の敵ですが、「大和」建造に情熱を注ぐ最高の技術者という側面も意識しています。あくまで架空の人物ですが(笑)。

ところで戦艦「大和」の使い方ですが、僕は極秘で建造しないで、逆に世界に知らしめながら造るっていうのが一番の使い方だったんじゃないかと思うんです。巨大戦艦があるから、戦争してもつまらんな、って相手に思わせる事こそが最大の利用方法だったと。日本の場合、そういった駆け引きが下手ですよね。何ら米国への圧力になってない。

アルキメデスの大戦 第1巻
戦艦「大和」を阻止せよ!

戸高 そうですね、日本には完成した「大和」を使える人材がいなかったですからね。

山本五十六がこんなことを言っています。「戦艦は床の間に2隻くらいは飾っておいていい」と。でも床の間にある"名刀"はね、最後の瞬間には使わなきゃいけない。

私はね、「大和」には能力があったと思っています。ただ能力を使うには、その能力を超えた人でないと使えない。日本のエンジニアは"名刀"を造ったんだけど、それを使いこなすだけの"名人"が日本海軍にいなかった。だから世界に知らしめることが一番の使いどころだったというのは的を射てると思います。

三田 あと僕は戦艦「大和」は、国の公共事業と同じだと思ってるんです。国の資産を使って大きな事業を起こす……。青函トンネルや、四国大橋、黒部ダムとかと同じ。

青函トンネルも、はたして青森と北海道を海底トンネルで結ぶ必要性はあるのかどうか? という議論よりも、おそらく、あの当時の人は「掘ってみたかった!」「俺達の技術ならいけるんじゃないか!」って気持ちから生まれたように思えるんです。

戸高 「やるか、やらないか」という選択は政治家が決めることで、エンジニアってのは「ここまで、できますよ」ということをアピールする。「オーダーがあったら、できますよ」っていう姿勢でね。そして「なろう事なら、やりましょうよ」となる。

ですから、日本の場合、どこが弱かったか、というと、一番トップで、物事をコントロールするはずの人達が、現場のエンジニア達に押し切られる側面があった。これは決定権を持つ人間が使用目的を理解していないことが原因です。新国立競技場の場合も全く同じ。これが"ダメ"の根元ですね。