【プロ野球特別読み物「育てる」】 完成品をカネで買う巨人・阪神の時代はもう終わった

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時には突き放す

25年ぶりのセ・リーグ制覇をめざす広島は「育てるしかない」球団だ。半世紀以上、広島を取材するスポーツライターの駒沢悟氏が明かす。

「他球団との違いは、来季以降、どの選手をとるかリストアップをする編成会議に、松田元オーナーが自ら出席していることです。オーナーから指示は出ないようですが、編成担当やスカウト陣にピリピリした緊張感が漂っている」

広島は他チームに比べて資金が限られる分、ドラフト戦略がチームの命運を握る。6月17〜19日の交流戦・オリックスとの3連戦で、3試合連続で決勝本塁打を放った鈴木誠也外野手(21歳)も、ドラフトの駆け引きに勝って獲得した選手だ。3位で指名する予定だったが、巨人やソフトバンクが執拗にマークしていることを察知し、2位に繰り上げて指名した。

鈴木を指導したことのある広島OBが明かす。

「彼は高校時代(東京・二松学舎附)投手で、強肩、俊足です。強化指定選手に指名され、外野はすぐにできると判断したので、二軍ではショートで出場し、選手としての『幅』を広げるトライをした。彼は少年時代、お父さんと『巨人の星』を彷彿とさせる猛練習をしていたそうなので、鍛えがいがあった。全体練習後には必ず1時間の特打を追加しました」

入団時は無名だった正田耕三や江藤智や前田智徳、阪神の現監督、金本知憲も経験した「胃から汗をかく」猛練習は今も健在である。

今季の好調を支える田中広輔、菊池涼介、丸佳浩の不動の1、2、3番トリオは、実は野村謙二郎・前監督の遺産だ。前出の広島OBが明かす。

「野村監督は菊池、丸を往年の衣笠祥雄、山本浩二に重ねて、チームの核となる選手に育てたいと思って使い続けた。俊足の田中も新人ながらショートで使い続け、試合の中で鍛えていった。監督室には二軍選手のその日の試合成績もホワイトボードに記され、野村監督はリアルタイムで把握していました」

二軍で旬の選手を一軍に昇格させてすぐに起用する。緒方孝市監督もその方針を引き継ぎ、若手の競争を活性化させた。前出の駒沢氏が明かす。

「鈴木は2月のキャンプで右太ももをけがした時、悔しくて担当スカウトに泣きべそをかきながら電話をした。田中も入団1年目、イレギュラーバウンドがほおを直撃し、流血しても翌日には『出ます』と言って、ドクターストップを拒んだ。彼は何度か二軍落ちの危機があったのですが、心身の強さで踏みとどまっているんです」

広島・鈴木は阪神のエース・藤浪晋太郎と同じ'94年生まれ。甲子園の土を踏めなかった若武者は、聖地で春、夏連覇を成し遂げた剛腕と今や、立場を逆転しつつある。自前の主力を育成できずにもがく巨人や阪神の「マネーゲーム」はもう通用しない。

「育てる」ことは、教える側に辛抱が求められる。個と向き合い、時には受け入れ、時には突き放す。人の成長とは、指導者が覚悟を持って戦い続けた先に、あるのだ。

「週刊現代」2016年7月23日・30日合併号より

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上田