なぜビートたけしは昭和の事件当事者を演じるのか

新連載 ビートたけしが演じた戦後ニッポン 第1回
近藤 正高 プロフィール

たけしの演じてきた大久保清も東条英機も、あるいは千石剛賢や金嬉老も、いずれも悪名高い人物だ(千石は、たけしのドラマにより世間のイメージが変わったとさえいわれる)。しかし劇中において彼らは単純な悪役ではなく、それぞれの抱えた複雑な背景を克明に描きながら、その行動が裏づけられていた。池端によれば、たけしの演技はそこに説得力を与えたというのだ。ここでも彼の役柄の二面性が強調されている。

たけしが二面性のある人物を演じて説得力があるのは、そういう性格が彼のなかに本質的に備わっているからだろう。彼自身、以前から「振り子の理論」と称して、振り幅が大きいほど反対側に戻ったとき大きな力が出せるとの持論を展開してきた。たとえば振り子の振り幅の片側が暴力、反対側が愛だとすれば、過激な暴力は過激な愛になりうるというのだ。

あるいは映画監督の北野武がシリアスなタッチで感動させる一方で、芸人のビートたけしがコメディ・ギャグで笑わせることも、この論理によって説明できよう。

本連載ではそんなたけしの二面性に着目しながら、彼がこれまで出演してきた現実の人物や事件を題材とするドラマなど映像作品を考察してみたい。はたして、たけしの演じた人物と彼自身はいかに重なり合ったのか? あるいは両者のあいだに相違点はないのか? そんなふうに読み解くなかで、たけしのパーソナリティ、生きてきた時代にまで迫れたならと思う。

(以下、第2回へつづく)

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近藤 正高(こんどう・まさたか) 1976年愛知県生まれ。ライター。サブカルチャー誌「クイック・ジャパン」(太田出版)の編集アシスタントを経て1997年よりフリーランス。「ユリイカ」「週刊アスキー」「ビジスタニュース」「エキサイトレビュー」など雑誌やウェブへの執筆多数。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)、『私鉄探検』(ソフトバンク新書)、『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)。現在、ウェブサイト「cakes」にて物故した著名人の足跡とたどるコラム「一故人」を連載中。ブログ:Culture Vulture(http://d.hatena.ne.jp/d-sakamata/)、ツイッター:@donkou