藤井聡太七段も読んでいたトップ棋士「11人の告白」とは

大川 慎太郎

決して他人事ではいられない

プロ棋士はその最強集団たる日本将棋連盟に所属しているが、それぞれが「個人事業主」のようなもので、副業を持つことも可能である。たとえば将棋イベントへの出演なども、将棋連盟はあくまで協力をお願いする立場にすぎず、棋士が断っても問題はない。将棋界は「強制」が少ない世界なのだ。

だから自由な発想で物事を考え、それぞれが好き勝手に意見を述べることができる。これは将棋界の豊潤さの証明であり、財産だろう。

そのうちに、ふと思った。棋士たちの真摯な言葉の数々を、そのまま証言集としてまとめればおもしろいのではないか、と。

コンピュータの発達によって仕事を失うかもしれない──。

この命題を突きつけられているのは棋士だけではない。将棋界は決して特別な業界ではないのだ。

いま、インターネットや雑誌で、「○年以内に消えそうな職業ランキング」という記事をご覧になる機会もあると思う。人工知能の発達は留まるところを知らない。いつ誰が、現在の棋士が置かれているような状況に立たされないとも限らないのだ。そんな時に、棋士たちが考え、発した言葉の数々が読者のヒントになることもあるはずだ。

棋士11人の告白

拙著『不屈の棋士』の序章「窮地に立たされた誇り高き天才集団」では、将棋界のなりたちと、将棋ソフト発達の歴史について簡単に記し、いま何が問題で何がポイントになっているのかを理解できるようにした。

第1章から棋士のインタビューとなっている。第1章「現役最強棋士の自負と憂鬱」には、「何の将棋ソフトを使っているかは言いません」と語った羽生善治三冠と、「コンピュータ将棋と指すためにプロになったのではない」と話した渡辺明竜王が登場する。

ソフトと電王戦で戦う代表者を決める第1回叡王戦に、羽生と渡辺はエントリーしなかった。だが2016年5月、羽生は第2回叡王戦にエントリー。6月には予選を突破した。9月から行われる予定の本戦は大きな注目を集めることは間違いない。本書のインタビューを読んでおくと、いつもと違った視点で羽生の戦いを楽しめるはずだ。

渡辺は第2回叡王戦も不参加を表明した。理由は「基本的に第1回と同じ」だそうで、第1回不参加の理由はインタビューの冒頭でたっぷりと語っている。

第2章「先駆者としての視点」では、将棋ソフトに通じている勝又清和六段、西尾明六段、千田翔太五段の3人のインタビューを掲載している。3人は棋士とソフトに関する様々な事象について、フラットかつ冷静な視点から話してくれた。ソフトの有効な使用法については多くの棋士が模索中であり、もしかしたら棋界が最も注目するのは、この第2章かもしれない。

続く第3章「コンピュータに敗れた棋士の告白」では、2015年の電王戦ファイナルで最強ソフト「ポナンザ」に敗れた村山慈明七段の「効率を優先させた先にあるものへの不安」と、「第1期電王戦」でポナンザに連敗を喫した山崎隆之八段の「勝負の平等性が薄れた将棋界に感じる寂しさ」を収録。手痛い敗北を喫し、立ち上がった男とこれから立ち上がろうとする男のソフトに対する視点は、非常に興味深く読んでいただけると思う。

以降、詳細についてはぜひ拙著をご覧いただきたいが、第4章「人工知能との対決を恐れない棋士」では森内俊之九段と糸谷哲郎八段、第5章「将棋ソフトに背を向ける棋士」では佐藤康光九段と行方尚史八段による、貴重な証言を紹介した。

最後に「あとがき」として、取材後に行われた第1期電王戦について付け加え、全体の総括を試みている。現状に強い危機感を抱き、未来を真剣に模索する棋士たちの言葉は、必ずやあなたに何らかの新しい視点を与えることだろう。

大川慎太郎(おおかわしんたろう)
1976年静岡県生まれ。日本大学法学部新聞学科卒業後、出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『将棋・名局の記録』(マイナビ出版)、共著に『一点突破 岩手高校将棋部の勝負哲学』(ポプラ社)がある。