作家・浅田次郎が語る「戦争の手触り」〜戦争を描くことは"使命"だと思っています

週刊現代 プロフィール

―「不寝番」は'73年の陸上自衛隊が舞台になっています。

僕は昭和46年に自衛隊に入ったんですが、ちょうど同じ頃の話です。自衛隊に入って役立っていることはいっぱいありますよ。たとえば早寝早起きとか(笑)。

学んだことでいちばん大きいのは、人間はみんな公平だということ。自分は何も特別な人間じゃない。プライドは叩き潰されるし、コンプレックスはなくなる。へばるときはみんな同じだから。体力の限界で「死ぬんじゃないか」と思ったときは、みんなそう思っている。

「一芸に秀でたやつ」は必ずいることも教わりました。まともに数も勘定できないようなやつでも、土嚢を背負うことが誰よりも上手かったり。これは自衛隊の必須科目なんです。戦時は陣地構築、平時は災害派遣のとき。

結局ね、「頭の中」はほとんど関係ない。本をたくさん読んでいるとか、勉強ができたとか、人間の属性のほんの一部に過ぎないと痛感しました。

―作者として、本書をどのように読んでほしいでしょうか。

これは戦争小説ではなく、反戦小説です。戦争はけっしてあってはいけないことだと思うし、どんな事情があっても賛美することはできない。これからも小説を通じて、反戦を訴えていきたいと思っています。

―最近は憲法改正の動きも現実味を帯びてきましたね。

9条の精神をなくしてはいけないけど、今のままでいいわけもない。ある程度の改憲はやむをえないでしょう。「戦争の放棄」は厳守するとして、きちんとした国防をする上でも、自衛隊の憲法上の整合性は必要だろうと思います。

ただし、国民投票はいけない。マルかバツかで簡単に結論を出す問題じゃないでしょう。英国のEU離脱のとき、僕はロンドンにいたんだけど、みんな呆気にとられていた。マルかバツかで論じられる問題なんて、そうそうありませんよ。

(取材・文/伊藤和弘)

あさだ・じろう/'51年東京都生まれ。'95年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、'97年『鉄道員』で直木賞、'08年『中原の虹』で吉川英治文学賞、'10年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞を受賞。'11年より日本ペンクラブ会長

『週刊現代』2016年7月23・30日号より

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