作家・浅田次郎が語る「戦争の手触り」〜戦争を描くことは"使命"だと思っています

週刊現代 プロフィール

―2作目は「鉄の沈黙」。これは戦場を舞台にした作品です。

昔から日本は技術大国で、科学技術の面では優れていたわけです。兵器を作るために動員された技術者も、最後までプライドは失わなかったと思う。彼らの目から戦争はどう見えていたかを描いてみました。

500万人の兵隊には500万の人生があったはずで、それぞれの戦争観はすべて違う。

戦後の教育では軍隊と民間人を分けて考えるけど、国民皆兵の徴兵制があった当時、軍隊の9割は召集された民間人でした。戦争のむごたらしい写真があるでしょう? 見た目は兵隊の死体でも、実際は魚屋さんや会社員だったのですよ。その累積が300万人以上の戦死者になったんです。

これは反戦の小説です

―「夜の遊園地」や「金鵄のもとに」では、戦争で心身に深い傷を負った人たちが登場します。

傷痍軍人というのは、僕はすごく生々しく覚えている。子供の頃、傷痍軍人を可哀想だと思ったことはないんです。ただただ怖かった覚えがあります。

祖父母と新宿に行ったときなど、5円玉や10円玉を渡されて「あげておいで」と言われるんだけど、怖くてできませんでした。手足を失ったその姿。そこに、僕の知らない戦争があったわけです。

また、傷痍軍人は語らない人たち。「沈黙の訴え」しかしない人たちですからね。その沈黙も怖かった。

それでも、あの方たちの存在意義はすごくあったと思うんです。なぜなら僕の中に残った怖さが小説を書かせたわけだから。戦後生まれの人に戦争を書かせてくれたのは、あの傷痍軍人の姿なんです。それをきっかけに、戦争を真剣に考えるようになった子供も多かったはずです。

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