日本人の「英語力低下」がよくいわれますが、それは国語力が下がっている結果だと思います

島地勝彦×マーク・ピーターセン【第2回】
島地 勝彦 プロフィール

シマジ そういう白鳥の内面の変化を博士論文にしたんですね。

マーク もう一つ、白鳥の文藝評論家としての仕事で、『自然主義盛衰史』というのはとくに優れた作品ですが、それを研究の中心にしたんです。

シマジ そこまで白鳥を研究すれば、十分、審査官たちを煙に巻けたでしょう。

マーク ところが、わたしはそのまま日本に残ったので、博士論文は書きませんでした。論文を書いてアメリカの大学に就職する予定だったんですが、やっぱり日本に残りたいという気持ちが強かったので、結局、正宗白鳥の博士論文は幻に終わってしまいました。

でも日本に残るといっても、まさかわたしが日本の大学で国文学を教えるなんてことは不可能ですから、まず英文学の業績を改めて作って、最終的に明治大学で働けることになったんです。

シマジ どういう作家をとりあげたんですか?

マーク ジョセフ・コンラッドとか、V・S・ナイポールとか、そういうアウトサイダー意識の強い作家を取り上げました。英文で書いてもいいということだったので、わりと簡単でした。

佐藤 そういう作家の作品について書いた論文を大学の「紀要」に掲載して、業績を積み重ねていったわけですね。

シマジ 「紀要」というのは研究所や大学で出している定期刊行物ですよね。

マーク そうです。そのあとで学会に出てプレゼンテーションをやりました。まあ、そういうむかしもありました。

シマジ マークさんがそこまでして日本に残ろうと思った最大の理由はなんですか?

マーク まず、外国語で生活するという刺激、異文化のなかにいるという刺激が非常に魅力的でした。いまではもう日本がわたしにとってのホームで、異文化には感じませんけど。

つまり日本で生活しているだけで、自分が習うべきものがいろいろ向こうからやってきて、自然に習っている気持ちになれたんです。日本人の友達も出来たし、読み書きが上達するにつれて、どんどん生活が面白くなってきたんです。

シマジ いまマークさんは日本の新聞を読んでいるんですか?

マーク はい、そうしています。やっぱり読むより書くほうが難しいんですが、とにかく毎日、日本語の文章に触れていることがなにより大事なんです。36年も住んでいて、いまだに把握していない用法がたくさんあります。

本を出すときには、動詞の使い方などを辞書でいろいろ調べながら書いています。難しくて疲れますが、実際、英文で書く場合の10倍ぐらい時間がかかります。でも書き上げたときの達成感は、これまた10倍以上に感じます。