それは、命の始まりについての正しい理解であり、妊娠がうまくいかないときに利用できる最新の「科学的根拠に基づいた医療」にはどんなものがあるか、ということだと思います。
この本は、こうした知識に加えて、これまで一般の方にはほとんど届くことがなかった医師の専門的知識も含めて、わかりやすく平易な言葉で伝えられるように作りました。
似たような名前のホルモンや薬の名前が出てきたりしてややこしい部分もありますが、肩の力を抜いて、興味を感じたところから読んでもらえたらと思います。複雑な話や大事な話は繰り返してありますし、読み進めて全体像がわかってくれば自然に納得できる話もありますから、わかりにくいところがあれば読み飛ばしていただいてもかまいません。
また、不妊治療の技術は命の始まりを扱い、しばしば倫理的な議論を呼んできました。ですから、この本はあくまでも「解説書」なのですが、執筆に医療者と非医療者の両方が関わったのは、視点が偏らないようにするという観点からもよいことだったと思います。
分担としては、河合が、これから体外受精に取り組む医師を対象に浅田が開催した集中セミナーを受講し、実際に行われている診察や採卵、培養室のラボワークなどを数日間にわたって実地取材したのちに、はじめの文章を作成しました。そして、それをもとに2人の共同作業で加筆、修正を繰り返して仕上げました。
ただ、ひとつお断りしておきたいことがあります。
それは、不妊治療はとても変化の早い最先端分野であり、まだ「これが正しい唯一の方法だ」と言えるものがありません。とくに日本では不妊治療は自費診療です。料金もまちまちなら、診療のやり方もいろいろだということです。
ですから、この本を読んだ方が実際に治療を受ける際は、この本で得た基本知識をもとに、実際にかかる医師の話をよく聞いてください。
この本では、浅田自身が現場で実践しており、最新の研究から国際的に主流となってきている治療法について解説していきます。
不妊治療は、親子の始まりの新しい形です。この本が、不妊に悩むカップル、そして親子のさまざまな始まりについて、もしくは人が命を継いでいく仕組みについて関心を持つすべての方に、不妊の最新事情をお届けできるものとなりますように。
それでは、不妊治療の話を始めましょう。