現代物理学の「巨人」がアインシュタインと論争を繰り広げた理由

『ニールス・ボーアの量子論』あとがき
今枝 麻子, 園田 英徳

その後、量子力学は多くの研究者の力で確立され、盛んになり、洗練されてきた。現在から振り返ると、ボーアの仕事はそれを受け継ぎ発展させた後輩たちの仕事の下に埋もれてしまったように感じられる。

だが、もっとも困難な過渡期の基礎的な仕事をボーアがなしとげたからこそ、その後のはなばなしい発展があったのである。

身近な例では、ボーアの原子模型は、今でも原子軌道の大きさや電子エネルギーの目安を与えてくれる非常に便利なものだが、高校物理の教科書の最後に出ているせいか、授業であまり取り上げられないようだし、大学の物理の授業でも、最近の量子力学の発展については学んでも、ボーアの論文を読むところまではらないことが多い。

ひとつの新しい分野をきりひらいたボーアの模索のプロセスから学び、その業績を改めて見直すことは、今、とても意義深いことだと思う。

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翻訳は、全体を通してまず今枝が訳し、そのあとで園田が主に物理に関する記述をチェックして進めていった。本書はあくまでニールス・ボーアの伝記的グラフィック・ノヴェルであって、物理の教科書ではないので、原著の物理の記述にはあえて手を加えず、作者の意図どおり、おもしろいストーリーとして読んでもらえるよう心がけた。

原作の題名は『Suspended in Language』で、直訳すると「言葉のなかに宙づりになって」となる。説明抜きでは少々わかりにくい言葉なので、本書の題名としては使われないことになったが、この言葉は本編13章の終わりにでてくる。ボーアがキルケゴールの文章に想を得て、言語(思考)の曖昧さをどのように考察していたかを説明している場面だ。

ボーアの解釈は量子力学者らしい独特なもので、リーマン面までもちだして、とても文系的な問題にも科学的な知性で取り組んでいるのが興味深い。最後になるが、編集にあたってくれた講談社ブルーバックスの小澤久さんに感謝したい。小澤さんには、翻訳の提案をしていただいたばかりか、編集の段階で大変お世話になった。

訳者 今枝麻子(いまえだ・あさこ) 
一九六六年、兵庫県生まれ。翻訳家。米国ペンシルヴァニア州立大学比較文学科にて修士号取得。訳書に『ファイル 秘密警察 とぼくの同時代史』(T・ガートン・アッシュ著 みすず書房)がある。

訳者 園田英徳(そのだ・ひでのり) 
一九五八年、東京生まれ。カリフォルニア工科大学でPh.D.を取得。現在、神戸大学大学院理学研究科物理学専攻准教授。専門は素粒子理論。訳書に『物理がわかる実例計算101選』(ブルーバックス)、著書に『今度こそわかる素粒子の標準模型』(講談社)など。

原作者 Jim Ottaviani(ジム・オッタヴィアニ) 
科学関係のマンガ作家。ミシガン州アナーバー市在住。

漫画 Leland Purvis(リーランド・パーヴィス) 
マンガ家。二〇〇〇年、Xeric賞受賞。
『マンガ 現代物理学を築いた巨人 ニールス・ボーアの量子論』
ジム・オッタヴィアニ=著・原作
リーランド・パーヴィス=絵
今枝麻子=訳
園田英徳=訳

発行年月日: 2016/07/20
ページ数: 320
シリーズ通巻番号: B1975

定価:本体  1080円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)

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