現代物理学の「巨人」がアインシュタインと論争を繰り広げた理由

『ニールス・ボーアの量子論』あとがき
今枝 麻子, 園田 英徳

このグラフィック・ノヴェルは、『マンガ はじめましてファインマン先生』(ブルーバックス)で知られたジム・オッタヴィアニの作である。

マンガという読みやすい形式に加え、ボーアの人となりや時代背景のおかげで、物理にとくに興味のない読者にも十分楽しめる作品になっていると思う。物理や物理学者に興味があれば、いっそう楽しく読める。

高校生でも、この本を読めば原子模型や核分裂のしくみはもちろんのこと、けっこう不確定性原理まで学んでしまえるのではないかと思うほど、物理の説明がうまく書かれている。

また、量子力学という、一般にはなじみの薄い物理の一分野が、20世紀の歴史にどれほど直接的にかかわっているか(いちばんわかりやすい例は核兵器)、また、どれほど私たちの世界観に影響を与えているか、この本は驚きとともに再認識させてくれる。

「量子」の概念は1900年にマックス・プランクが初めて導入したが、その発展の初期に最も貢献したのは、ほかならぬアインシュタインである。

アインシュタインの有名な仕事は相対論や重力論だが、1921年にノーベル賞を取ったのは光の粒子説に対してであり、その翌年の22年には、ボーアが原子模型の業績でノーベル賞を取った。

ニールス・ボーア(1930年撮影) Photo by Getty Images

ボーアとアインシュタインの交流は、そのまま量子力学の発展の歴史と重なり、この本を貫く重要なテーマになっている。この20世紀を代表する二人の物理学者のうち、世界中の人が知っているアインシュタインに比べるとニールス・ボーアの知名度は低く、その仕事の意義が広く知られていないのは残念なことである。

アインシュタインが量子力学への扉を開きながら、最終的には古典物理の範疇にとどまったのに対し、ボーアはまったく未知の量子力学の世界を積極的に模索し、直感と大胆な方法論で突破口を開いたのだ。