東京都内で600坪以上の大豪邸に住む人たちの「暮らし」と「苦悩」

意外な現実。実は大変なんです…
週刊現代 プロフィール

さっそく宮下氏はこの話に乗り、文化財の指定を受けたが、それが「文化財貧乏」の始まりだった。

「ある時に自宅があまりに古くて冬は寒すぎるので改修したいと思ったのですが、文化財指定を受けたがために改修は規制されてしまった。家には住めないけれど、売るにも売れない。しかも、維持費だけがかかるという事態に陥ったんです。

不定期に母屋などを修繕しますが、その費用は2割が自己負担。植木の手入れなどはすべて自己負担で、年間100万円近くかかってしまう。

おまけに、自分の住む家を別の敷地内に建てなければいけなくなったのですが、その新しい家の土地部分はしっかり固定資産税を取られる。つまり、私は普通の生活を営みながら、それとは別に文化財を維持し続けないといけなくなったんです」

税金対策のつもりが余計に出費が増えてしまうのだから、本末転倒だ。

「まったくおカネは貯まりません。いまは文化財指定されたこの自宅を国や東京都に引き取ってもらえないか検討しているところです」

このように、豪邸に住む人たちは、一般人には計り知れない悩みを抱えていることが多い。

一方で、都内で悠々の「豪邸ライフ」を送っている人もいる。

小田急線沿線の低層マンションなどが建ち並ぶ高級住宅街。敷地内に入る門扉は来るものを歓待するように大きく開け広げられ、門をくぐると手入れされた木々が迎え入れる。その木立を抜けた先、やっと豪邸が目の前に立ち現れる。門から家が見えないほどの敷地は、1000坪近い。

これほど広大な土地を維持するため、税制などで苦労していないか――。そう尋ねると、

「うちは全然大丈夫です」

この家の男性主人は笑って、語り出した。

「こんなに広い土地があるから税金が苦しいでしょうとよく心配されますが、そんなことはありません。実はうちの場合は、生産緑地の指定を受けているので、土地の課税評価が農地としての評価になるんです。都内ですが農業をしっかりやって、生活できていますよ」

 

車は普通の国産です

東京都主税局によれば、生産緑地の評価額は都内であればどこでも1m2あたり220円(1坪あたり約720円)。仮にここが普通の宅地であった場合、評価額は1坪約200万円なので、実に3000倍近くも固定資産税が違う計算になる。

「生産緑地の場合、相続時も農地評価できる。もちろん、営農しているという条件付きですが。だから、一番神経を使うのは子どもとの関係です。子どもが農家を継ぎたくないと言ったら、この農地が宅地扱いになって、とてもじゃないが支払えない巨額の税金支払いが振りかかってくるわけです。いまのところ子どもは継ぐ気を見せていますが」

では、都内の広大な土地で農家を営む人はみな「安泰」なのかといえば、そんなこともない。練馬で2000坪あまりの土地を受け継ぎ、農園を営んでいる和久井淳氏(50代、仮名)が嘆く。

「確かに農地のおかげで税金は低く抑えられているけれど、私の場合は農園が儲かっていないからきついんです。では、農業をやめればいいじゃないかと思うかもしれませんが、そうしたら今度は高額の納税を迫られる。儲からないけど農業は続けなければいけないので、生活は楽ではありません。見ての通り、車も普通の国産に乗っています」

和久井氏は子どもには同じ思いをさせたくないので、土地の一部を使ってマンションを建てることも考えたが、それもあきらめたという。

「この一帯は建ぺい率がかなり低く抑えられているんです。デベロッパーも進出してこない。開発すらできない『儲からない土地』なんです。だからもう、粛々と農業をやっていく運命なのだとあきらめました。

うちの敷地には、行政に指定された保安林もありますが、これも手入れが面倒でね。落ち葉が敷地外に出ると、近隣からクレームが来るから、剪定と掃除にカネがかかって仕方がない。よくお宅は広くて、自然に囲まれていいですね、なんて言われるけど、この広大な土地に住むがゆえの気苦労は、誰にもわかってもらえないんです」

実は大変なことが多くて、税金に追い回され、それほど贅沢もできない。それが豪邸生活の意外な現実だった。

「週刊現代」2016年7月16日号より