東京都内で600坪以上の大豪邸に住む人たちの「暮らし」と「苦悩」

意外な現実。実は大変なんです…
週刊現代 プロフィール

固定資産税が3000万円超

もちろん、現在も固定資産税は重くのしかかり、試算すると年間約3000万円と超巨額に及ぶ。

「土地の一部を貸し出して地代収入を得ていますが、固定資産税の支払いに消えていくので、手元には残らない。地代収入で現金や金融資産がたんまり増えていくなんてことではないんです。

だから、私は贅沢なんてまったくしたことがない。酒もタバコもやらないし、遊びも一切やらない。海外旅行にも行かずに、ひたすらこの土地の維持に人生を捧げてきました。唯一、贅沢をしたと言えば、築70年以上経てさすがに住みづらくなってきた木造の自宅を建て替えたくらいです。

そんなに苦しいなら土地を切り売りすればいいじゃないかとよく言われますが、そこは理屈ではないんです。ご先祖様を想うと、私の代で土地を失うわけにはいかないという強烈な使命感が湧いてくるんです。

先日も、孫に『夢はなんだ』と聞くと、『ない』と言うんです。理由を聞くと、『だって、私は後を継がなきゃいけないでしょ』と。この言葉には愕然としました。この家で生まれ育つことの宿命を感じずにはいられませんでした」

庶民にはけっしてうかがい知ることはできない「豪邸の苦悩」。

同じくその苦しみに頭を抱えているのが、酒井信二氏(60代、仮名)である。小田急線沿線でも屈指の人気エリアで、有名マンションなども建つ一角。瀟洒な邸宅が建ち並ぶ中を歩いていると、忽然と広大な林に覆われた豪邸に出くわす。敷地はなんと1000坪を超えるという。

「江戸初期から判明しているだけで私で15代、この土地を受け継いできました。この家は4代前が宮大工に建ててもらったもので、関東大震災でも先年の東日本大震災でもビクともしなかったんですから丈夫なものです。ただ、この家は以前は倍くらいの大きさがあったんです。実は固定資産税が高くて払えなかったので、半分壊したんです。

いまでも、固定資産税は年間1000万円近い額を支払っています。私は納税に苦しむ親を見てきたから、小さい頃から稼げる専門職になろうと心に決めて、医者になりました。多くの人の命を助けたいと思って医師を志す人は多いと思いますが、私は固定資産税を支払うために医師になったようなものです」

 

酒井氏は現在60歳を超えているが、「重税」の支払いのためにいまも週に数回はアルバイトとして病院に働きに出ている。また、数年前には敷地内に賃貸用アパートを建てて、家賃収入を税金の支払いの足しにしてもいる。

「もっと大きなマンションを建てればいいと勧めてくる人もいますが、私は数々の『失敗』を見てきています。同じように都内で土地を受け継いだ親戚は、子供が困らないようにと大規模マンションを建てました。が、10億円の相続税を支払う時にマンションが売れなくて、結局土地を手放すことになりました。

株などの資産運用を試みた親戚もいましたが、バブル崩壊、リーマン・ショックでやられて、みな『没落』していきましたよ。資産というのは、困った時に案外役に立たないんです」

酒井氏の収入はほとんどすべて、土地の維持とローン支払いと税金に消えてなくなるので、貯金は増えない。贅沢もできないが、「それでもこの土地が維持できればいい。そういう人生ですから」と酒井氏は言う。

「税務署っていうのは恐ろしいですよ。私が職員の名前を知らなくても、彼らは私の名前と顔をしっかりと覚えている。税務署に行くと一度もお話ししたことがない方から、『こんにちは、酒井さん』と声をかけられるんですから。まるで、あなたのことはいつも見張っていますよ、と言われているようなものです。

土地の管理は本当に大変です。草むしりひとつとっても、抜いても抜いても生えてきますから。アルバイトもして、草むしりもしてという生活ですから、時間はいくらあっても足りない」