「アベ政治に反対」と野党が叫ぶほど、安倍首相が指導力を発揮しているイメージは強化されるという“逆説”

知っておきたい政治の「シンボル作用」
佐藤 卓己 プロフィール
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輿論政治のスタート地点

舛添要一・東京都知事の辞職問題はその典型例だろうか。

舛添都知事を辞任に追い込んだのが世論であったことは間違いないが、その世論は舛添個人に対する好き嫌いの反映であり、その政策の是非を問うものではなかった。

それゆえ、政治資金疑惑も知事の汚濁、政治家の不誠実として人格問題となり、政治システムの変革を求める動きには至らない。

もちろん、舛添辞任を求める世論がまちがっていたと言いたいわけではない。「辞任すべきか」と問われれば、私自身も不愉快な口調でイエスと答えたはずだ。

だが一方で、過去の都知事、全国の首長と時間的、空間的な比較考量を冷静に行い、その政策と能力を十分に討議する時間を取ってもよかったように思う。

そうであれば、熱しやすく冷めやすい世論とちがって、時間的耐性を持つ輿論が生まれたかもしれない。こうした公議輿論の公論形成はいつまでも理想型にとどまるかもしれない。

しかし、国民感情の分布を計量する世論調査の結果だけが世論ならば、それは現状を追認し政治的能動性を抑制する権力装置になりかねない。世論調査で示される民意とは、そこから輿論政治が始まるスタート地点にすぎないのだ。

その意味では近々報道される参議院選挙の終盤情勢も、ここから思考を始めるスタート地点とみなして投票所に向かうべきなのである。

佐藤卓己(さとう・たくみ)
京都大学大学院教育学研究科教授。1960年生まれ。広島市出身。専門はメディア史、大衆文化論。同志社大学文学部助教授、国際日本文化研究センター助教授などを経て、現職。主な著書に『輿論と世論』(新潮社)、『メディア社会―現代を読み解く視点』(岩波書店)、『大衆宣伝の神話』(筑摩書房)など。