オバマ大統領の退任が世界にもたらす地殻変動~米国の「リバランス」政策はどこへ向かうのか

佐藤 丙午 プロフィール

日中が抱いた米国への感情

この政策の困難な点は、まず、中国との戦略的な協調関係の構築と、同盟国に対する安心供与を、同じ時間軸の下で、相互に干渉しないように推進する必要があったことである。

オバマ政権の第一期にベーダー安全保障担当補佐官等が構想したG2は、2009年から始まった米中経済安全保障戦略対話などにつながり、中国の大国意識を満足させ、米中関係の改善に貢献した。

しかし、日本は疎外感と屈辱感を感じることになり、米中関係と日米関係をゼロサムと捉えた自身の認識が生み出す幻影に怯えることになるのである。

これとは逆に、同盟国などへの安心供与や、米国自体の「リバランス」が米中関係に緊張をもたらす事例も見られ、中国も米国の対アジア政策にアンビバレントな感情を抱くようになる。

中国に対して協調を働きかけ、しかし域内の同盟国や友好国とは対中牽制を強化(「ヘッジ」)し、全体的には米国の関与を抑制しつつ秩序の維持を図る政策は、同盟管理にかかわる問題を生むことになる。

米国のアジア政策では、米国の二国間同盟を「ハブとスポーク」状に運用する安全保障関係が構築されていた。

しかし、米国は域内の安全保障協力を連動させて関与のレベルを変化させる、「連邦化された防衛(federated defense)」を志向しており、オバマ政権下では域内の安全保障協力が増加した。

たとえば、日米印は海軍協力を強化し、共同演習も実施するようになった。さらに、米国はフィリピン地位協定を復活させ、ベトナムに対する武器貿易も開始した。日本もフィリピン、豪州、インドなど、海洋アジア諸国との安全保障関係を強化していった。

そして、域内各国の軍同士の交流や教育訓練機会の増加などは、地域の一体化された防衛共同体の認識を補強することに貢献したのである。米国は、2020年までにインド太平洋地域に戦力の60%を配置する計画を進め、その戦力もF-35やズムワルド級駆逐艦を含むなど、地域における優越を維持する方策は講じている。

つまり、オバマ政権の8年間において、慎重かつ大胆に、米国はインド太平洋の国際関係に働きかけを行ってきたのである。