オバマ大統領の退任が世界にもたらす地殻変動~米国の「リバランス」政策はどこへ向かうのか

佐藤 丙午 プロフィール

オバマ政権の対中政策

しかし、インド太平洋諸国には、軍事的に影響力を高めつつある中国に対し、米国が軍事的に均衡(バランス)をとることへの期待がある。

国際関係論の古典的な議論にあるように、台頭するパワーに対する処方としては、軍事力を含めたパワーで均衡をとるか、周辺国が「相乗り(バンドワゴン)」して秩序変更を受け入れるか、という選択肢がある。

しかし、米国にはインド太平洋諸国との間に「距離」という戦略資産があるため、中国に直接対峙する国とは異なり、遠隔地からの関与の程度を操作(一般的に、「オフショア・バランシング」や「オフショア・コントロール」と呼ばれる)する余裕がある。

この事情から、オバマ大統領が「リバランス」は関与を強化すると主張しているにもかかわらず、その信頼性に懐疑的な視線が投げかけられたのである。

しかし、米国のアジア政策は、バランスとヘッジの二元論で語れるものではなく、まして政策単体も対中アピーズメントか否か、というものでもない。

それを理解する上で、クリントン国務長官(当時)が『フォーリン・アフェアーズ』誌寄稿した外交論文が参考になる。

クリントンは、米国の「ピボット」は同盟国への関与の強化、米国のアジアの国際機関における存在感の拡大、貿易の拡大、軍事的プレゼンスの拡大、人権問題での指導力の発揮、中国に加え、その支配力を懸念するアジア諸国との外交関係の強化を含むもの、としている。

我々は、米国の個別の政策を自らの安全保障政策に対するプラスとマイナスで評価しがちであるが、クリントンはそのようなものではないと示唆しているのである。

オバマ政権の「国家安全保障戦略(NSS)」も、米国のリバランスは各種政策手段を重層的に実施することで、中国を「責任あるステークホルダー」へと変化させる包括的な政策を意図しており、中国の「封じ込め(containment)」や「囲い込み(encirclement)」を目指すものではないとしている。

結局のところ、オバマ政権の対中政策はブッシュ政権のNSSで示された「諫止(dissuasion)」を実践したものと捉えることが可能なのではないか。実際に、中国を冷戦期のソ連のようにゼロサム関係を想定して「封じ込め」ることを目指すのは、すべての域内の関係国にとって利益にならない。

しかし、地域覇権を目指して米国の関与を無効化しようとする中国は、米国が構築してきた「リベラル国際主義」に挑戦を繰り返しており、それを放置することは事態を悪化させることに他ならなかった。同時に中国は米国にとっても、また国際秩序を維持する上でも不可欠な国へと成長を続けてきた。

たとえば、米国はリーマンショックの際に中国の金融政策に助けられ、米中貿易も相互依存は増進していた。さらに、ポスト京都議定書の温室効果ガスの削減問題では、米中の二国間合意が死活的に重要な意味を持つものとなった。

このため、米国にとって中国の台頭を穏健なものに導くと共に、域内各国の不安を掻き立てないように「安心供与(reassure)」することが必要であったのである。