軍事大国ロシアが復活!?
中国への急接近と牽制、その「非対称な戦略」を読み解く

小泉 悠 プロフィール

ロシアにとっての「極東の意義」

ロシアはバルト海や北極海でもA2/AD能力の強化を進めてきたが、ここに来て注目されるのが極東での動きである。政治・経済的中心である欧州部から遠く離れており、また中国を刺激することへの警戒感もあって、極東ロシア軍の近代化は総じて遅れ気味であった。

しかし近年では、太平洋艦隊の母港であるウラジオスク周辺や、原潜基地があるカムチャッカ半島を中心としてA2/AD能力の強化が図られており、さらに千島列島へとこれが及ぼうとしている。

日本として特に注目されるのは、最新鋭のバスチョン及びバール地対艦ミサイルが北方領土の択捉島に配備される可能性であろう。

もともと択捉島やロシア領シムシル島には旧式対艦ミサイルが少数配備されているが、これが最新鋭の両ミサイルに置き換えられると、千島列島がほぼすっぽりと射程に入る。両ミサイルはウラジオストク付近にすでに配備されているが、ロシア国防省は年内にさらなる配備があるとしていることから、北方領土を含む千島列島への配備が近く始まるのだろう。

また、シムシル島にソ連が潜水艦用の秘密基地を設けた事例を除くと(現在は破棄)、千島列島には有力な軍港は存在してこなかった。

ところがロシア国防省は今年3月、千島列島に海軍基地を建設する意向を発表し、5月には千島列島北部のマトゥワ島に軍の野営地やヘリパッドが建設された様子を公開した。問題の海軍基地も同島に建設される可能性が高い。さらに今後は北方領土を含む千島列島に強力な防空システムや監視システムが配備される可能性なども否定できないだろう。

もちろん、北極や極東ではロシアが旧ソ連の勢力圏内のような介入を行うことは想定しがたい。この地域でロシアが念頭に置いているのは、核抑止力を担保する弾道ミサイル原潜のパトロール海域(北極海とオホーツク海)を防衛すること、新たな資源地帯及び大航路地帯として期待される北極から極東の海域をコントロールすることであろう。

北方領土における軍事力近代化の動きもその一環として理解する必要がある。北方領土における軍事的動向が「対日牽制」の性質を帯びていることは間違いないが、対日牽制のためにそのような動きが行われているのか、より広範な軍事的要請から行われている動きの一部が対日牽制に利用されているのかは区別して考える必要があろう。そうでなければロシアの戦略の全体像を見誤る可能性がある。