軍事大国ロシアが復活!?
中国への急接近と牽制、その「非対称な戦略」を読み解く

小泉 悠 プロフィール

核兵器の威嚇とロシア版A2/AD

実際の介入にせよ、その威嚇にせよ、これを行う場合にはNATOからの逆介入を阻止しうる能力も必要となる。チェチェン戦争やグルジア戦争、ウクライナ介入といった冷戦後の紛争では、米国からの限定攻撃によって軍事行動の停止を強要されるのではないかという懸念がロシア側には常にあった。

これに対してロシアが頼みとしているのが核戦力である。2000年代までのロシアは、いざNATOと戦争になった場合に通常戦力における劣勢を核兵器で補い、戦うというドクトリンを採用していた。

このようなドクトリンは現在も存在すると見られるが、勢力圏内への介入という観点からするとまた別のドクトリンが必要となる。この場合に必要なのはNATOに勝つことではなく、手出しをさせないことであるためだ。

そこで近年のロシアでは、自国の軍事行動にNATOが介入してきそうな場合、積極的に核兵器を使用してこれを阻止するという考え方が浮上している。もちろん、全面核戦争の引き金を引こうという話ではなく、無人地帯やほとんど無人の施設などを狙って一発限りの警告的核攻撃を行うことなどが主に想定されているようだ。

たとえば昨年3月、テレビ番組に出演したプーチン大統領が、クリミア併合時に「最悪の場合には核兵器を準備態勢に就ける可能性があった」と発言したことは国際的に大きな波紋を広げた。

これをクリミアやウクライナに対する核攻撃の可能性とした解釈も見られるが、文脈からすればプーチン大統領の念頭にあったのはNATO、特に米国の介入阻止であろう。

プーチン大統領は当時、米海軍が黒海にイージス駆逐艦を展開していたことに触れ、これに対抗してロシアがクリミア半島に長距離地対艦ミサイルを配備したことを明らかにしたうえで、以上の発言を行ったのである。

これと並行してロシアが進めているのが、A2/AD(接近阻止・領域拒否)能力の獲得である。A2/ADとはもともと中国の戦略に関して言われ始めた戦略で、航空機、防空システム、地対艦ミサイル、潜水艦、高速ミサイル艇、機雷などを組み合わせ、優勢な米国の海上プレゼンスを有事に自国近海に近づけないようにするものである。この弱者の戦略としてのA2/ADは、現在のロシアが自国周辺海域で行っていることにもほぼ当てはまる。

特に重点となっているのがこれまでもたびたび触れてきた黒海である。

黒海からカスピ海にかけての地域には、ウクライナ、グルジア、チェチェン、ナゴルノ・カラバフ(アルメニアとアゼルバイジャンの係争地で今年4月に過去最大規模の戦闘が発生した)、沿ドニエストル(モルドヴァからの分離独立地域)といったホットスポットがひしめいており、それゆえにロシアが軍事介入を行う可能性が最も高いためだ。

特に2008年のグルジア戦争以降、ロシアは黒海艦隊の近代化を急速に進めている。