軍事大国ロシアが復活!?
中国への急接近と牽制、その「非対称な戦略」を読み解く

小泉 悠 プロフィール

ロシアの「非対称な軍事力」

軍事力に話を戻すと、ロシア指導部が期待しているのは、こうした事態に際して勢力圏に介入しうる軍事力である。

たとえば2014年のクリミア併合に際しては、その少し前に創設された参謀本部直轄特殊部隊である特殊作戦軍(SSO)が真っ先に投入され、これに続いて陸軍からは独立した精鋭部隊の空挺軍(VDV)が電撃的にクリミア半島全体を占拠した。

もともとVDVは敵の後方奥深くにパラシュート降下して偵察や撹乱を行うエリート部隊であり、3万人程度の小規模な独立兵科であったが、最近ではヘリコプター機動部隊や戦車部隊まで傘下に収め、「第二の陸軍」ともいうべき強力な介入部隊に成長しつつある。

旧ソ連には貧しく人口の少ない国が多いため、ウクライナを除くと、ほとんどが1万人弱〜5万人程度の軍隊しか保有していない。たとえNATOと正面から戦うことはできなくても、勢力圏内の各国に対するロシアの軍事力は圧倒的である。

今後、旧ソ連諸国がロシアの勢力圏を逃れる動きを見せたり、政変によって反露的な政権が生まれたりした場合(ウクライナではその両方が併発した)には、ウクライナ型の介入をロシアが旧ソ連諸国に仕掛けてくる可能性は低くない。

NATOに加盟したバルト三国や旧東欧諸国でもこうした懸念は高まっているが、もしこれらの国々に対してロシアが介入に踏み切れば、そのコストは途方もないものになる。

欧米からの政治・経済的報復はウクライナの場合とは比べ物にならない苛烈なものとなるはずであり、集団防衛条項が発動した場合にはロシア軍はまず対抗しきれない。

それでもロシアによる介入の脅威がNATOに深刻な動揺を生んでいることは事実で、限られたロシアの軍事力でNATOを牽制する方法としてはたしかに機能しているとはいえよう(ただし、勢力圏内への介入とは異なり、どちらかといえば軍事的ブラフとしての側面が強いように思われる)。