それ以上に大きな期待を集めているのが医療だ。クリスパーを医療に応用すれば、従来の対症療法的な医療に代わって、遺伝子レベルで病気を根治させる画期的な治療法が生まれると医学関係者の間で期待されている。
ただし、この技術が無責任に使われると、いわゆる「デザイナー・ベイビー(生れてくる子供の外見や知能、運動能力などを親が望んだ通りに設計してしまうこと)」も生まれかねないとして、昨年12月に米ワシントンDCで開催された専門家会議で、クリスパーの医療応用に関するガイドラインが策定された。
それによれば「(クリスパーのような)ゲノム編集技術を受精卵など生殖細胞(DNAの変化を次世代に受け継ぐ細胞)に応用することは現時点では基礎研究にとどめる。一方、(すでに病気を発症した患者の)体細胞に対する治療であれば、ゲノム編集を臨床(実際の治療)に応用しても構わない」ということになった。
それ以前からすでに、クリスパー発明者の一人であるフェン・ジャン博士(米ブロード研究所)らが設立した医療ベンチャー「エディタス・メディシン」が、「レーバー先天性黒内症」という目の希少疾患に対する臨床研究を2017年に開始すると発表していた。
そしてクリスパーが実際に病気の治療に応用されるのは、このエディタスによる試みが最初になると見られていた。
ところが今年になって、米ペンシルベニア大学の医療研究チームが、「クリスパーによる各種癌治療の臨床研究を開始したい」とする申請書をRACに提出した。
つまり「レーバー先天性黒内症」のような希少疾患ではなく、患者数の多い「癌」という医療の本丸にいきなり切り込んできたため、医学関係者の多くは「こんなに早く(クリスパーの導入を)やるのか!」と驚いているようだ。